コラム

化石−ゾウとスッポン
絶滅動物いろいろ
孔あき岩
洞穴に秘められた謎
宮古島も「東洋のガラパゴス」
みやこびと風土と人のかかわリ−島尻マージと宮古人(みやこびと)
昭和初期の宮古島の水事情
宮古島水道誌(宮古島上水道組合発行、1967年)
宮古の人と水の力
10 汗の成分
11 塩分にどこまで耐えられる?
12 水と氷はどちらが重い?
13 水はものを溶かす能力が大きい
14 地球上の水を日本の上に積み上げてみると?
15 川の水や地下水はどこからくるの?
16 「酸性雨」って何?
17 石灰岩の溶解量
18 海水と血液の成分
19 水使用形態の区分
20 水と料理
21 「水道水」って何?
22 水道の種類
23 有効水量と有収水量
24 一般家庭での水の使いみち
25 家庭用水使用量増加の背景は?
26 川とダムの国際比較
27 日本の降水量は減ってきている?
28 水中の環境ホルモン
29 水の硬度と害
30 硫酸イオンと飲料水質
31 水質基準と安全性
32 水中物質の大きさ−水問題に関する度量衡
33 クリプトスポリジウム
34 化石水と温泉
35 地下水の湧水量を規定しているのは?
36 宮古島白川田湧水の湧水量と雨量の関係−宮古島で初めての給水制限を経験して−
37 宮古島の水・伊良部島の水−塩分の違い
38 宮古地方の水−硬度の高さ
39 宮古島の水道水源
40 地下ダム誕生の背景
41 地下ダムの種類と建設立地条件
42 地下ダムの水収支
43 PCPによる地下水汚染一不法投棄の代償
44 「花と錘乳洞の島」沖永良部島の地下水汚染
45 ブルーべビー症
46 氷の中に硝酸性窒素はどれだけ入るの?
47 水の中の硝酸性窒素を簡単にはかる方法
48 平良市内の地下水の海水による影響
49 「おいしい水」ってどんな水?
50 窒素と環境問題
51 雨水中の硝酸性窒素濃度
52 窒素の工業的固定と化学肥料
53 土の性質と硝酸イオン
54 伊良部島の地下水の硝酸性窒素濃度
55 沖縄島の河川水と湧水の硝酸性窒素濃度
56 城辺(ぐすくべ)町野城湧水中の硝酸性窒素濃度の推移
57 リアルタイム施肥診断
58 家畜ふん尿中の窒素と「家畜単位」
59 かんがい方法のいろいろ
60 森林が地下水に含まれる硝酸性窒素を吸収除去している可能性
61 水田のもつ水の浄化機能
62 ろ過材の大きさによるろ過能力の違い
63 粒子の大きさによる自然沈降速度の違い
64 「調査・分析・規制」の限界

1 化石−ゾウとスッポン

 島尻層群のシルト岩と琉球層群に形成 された割れ目や洞穴から、宮古島を含む琉球列島の成り立ちを知ることのできる多くの種類の化石が発見されています。島尻層群からは、鮫、鯨、それと大型の 陸生ほ乳類の象化石が知られています。鮫は体長5mもあったと推測されるオオホホジロザメの歯です(上野ら、1974;長谷川ら、1978)。鯨の化石は 島尻海岸の地層から産出し、現生のゴンドウ鯨、アカボウ鯨、ニタリ鯨に類似の肋骨等の化石です(長谷川ら、1973)。象化石は、島尻海岸の地層からトリ ロホドン象の臼歯破片と大神島からゴンホテリウム象の肋骨片が発見されています(長谷川ら、19731;1978)。スッポンの化石は、1988年に大神 島の島尻層群から発見されました。化石は、5cm四方の不完全な肋板骨の一部です。スッポン化石は、日本では、北海道から九州まで6か所から報告されてい ましたが、沖縄県では初めてです。大神島の島尻層群は、同層群の下部に相当する地層とされでいるので、第三紀中新世の頃(およそ2,000万年前)、大型 のスッポン類が棲息していたことになります。スッポンは淡水性動物ですから、この時には宮古島周辺には動物を育む陸地があったことが推測されます(大城 ら、1998)。
 琉球層群では、10か所の洞穴から化石を産します。宮古島の洞穴から化石を産することは古くから知られていました。Tokunaga and Takai(1939)は宮古島と来間島の洞穴から鹿化石、Tokunaga(1940)とOtuka(1941)は洞穴から象化石について報告していま す。鹿類の化石は、これまで琉球列島からリュウキュウジカ、リュウキュウムカシキョン、それにミヤコノロジカが知られています。しかし、宮古諸島を除く琉 球列島からはミヤコノロジカの化石は発見されでおらず、また宮古島を含めた周辺離島からはリュウキュウジカやリュウキュウムカシキョンの化石は発見されで いません。
 象化石は棚原洞から発見されています。この洞穴は琉球石灰岩に形成された全長80mの横穴で、かつてリン鉱石を採掘しており、化石はリン鉱石に埋もれた 洞床の石灰岩礫の中から採取されました。化石はナルバダ象の臼歯とされましたが、アーキディスコドン象である可能性も指摘されています(長谷川ら、 1973)。上野村のピンザアブからは、多くの種類の動物化石が発掘されています。この洞穴は全長140mの横穴で、洞床および洞奥には粘土層が厚く堆積 し、その中に多数の化石骨が含まれています。動物の種類はミヤコノロジカ、イノシシ、ケナガネズミ、ハタネズミ、ヤマネコ、キクガシラコウモリ、コキクガ シラコウモリのほ乳類をはじめ、両生類2種、は虫類6種、鳥類23種です。その他重要なものとして、人骨があります。その年代を測定した結果、 25,800±900y.B.Pと26,800±1,300y.B.Pの値が得られています。これは、琉球列島への動物渡来を考える場合のひとつの基準と なる年代値です。
(大城逸朗)

図T-10(スッポンの背甲肋板骨化石の一部)

2 絶滅動物いろいろ

 宮古島の基盤の島尻層群と琉球石灰岩層か らは、琉球列島の成り立ちの解明につながる貴重な化石が多数発見されています。島尻層群からは、陸の大型動物の象と海の大型動物の鯨と鮫の化石が出土して います。象はトリロホドン象の臼歯の破片で、1970年平良市の島尻海岸側の粘土層から、他のひとつは1976年大神島からのもので、ゴンフォテリウム象 の肋骨片です。いずれも化石は破片ですが、かつて象類が棲息していたことは間違いないようです。1988年に筆者は大神島で大型のスッポンの化石を発見し ました。スッポンは淡水性の動物です。宮古島の周辺に象が棲息し、かつスッポンが棲める自然環境を有する陸塊が存在していたことが推測できます。
 琉球石灰岩層にできた洞穴や岩石の割れ目からも多くの種類の動物化石が発見されています。大型の動物が洞穴を棲みかにするはずはないので、死んだ後に水 の流れで運ばれ堆積したものです。主な種類としては、平良市の棚原洞穴からアーキディスコドン象、城辺町友利の天川洞穴からミヤコノロジカ、オオヤマリク ガメ、ミナミイシガメやへビ類、上野村のピンザアブからは、ほ乳類10種、両生類2種、は虫類6種、鳥類23種が識別されています。ほ乳類ではミヤコノロ ジカがあり、これは絶滅種で類似の種類は中国北部に棲息しています。また、ヤンバルに現存するリュウキュウイノシシとは別種の大型のイノシシもいたようで す。ケナガネズミは化石の量からすると、かつての宮古あたりにかなりの数棲息していました。現在は沖縄北部の山林で、まれに目撃される程度です。ハタネズ ミは、ピンザアブから化石が発見されで初めて琉球列島に存在していたことが分かった種類です。両生類では、ヒキガエルは、もともと棲息していたことが分か り、は虫類ではかつてハブも棲息していたことが明らかになりました。また鳥類ではヤンバルクイナもいたとは驚きです。
 ミヤコノロジカ、大型と推測されるイノシシ、それに、ハタネズミは、いずれも北方系の種類です。化石の分布が宮古に限られていることから、これらの動物は、中国大陸から、直接宮古へ渡来したことが、推測されます。
 宮古は、全域サンゴ礁性の石灰岩で覆われていることからすると、完全にサンゴ礁の海になっていたことは明らかです。かつて多くの種類の動物を育んでいた陸地(塊)がサンゴ礁と何らかの取引でもしたかのように海と陸が入れ替わったのでしよう。
(大城逸朗)

3 孔あき岩

 1997年夏、宮古島の研究者から池間島の海岸に 孔のあいた岩が多数あるとの連絡を受けました。孔あき岩については1969年、当時千葉大学の前田四郎教授の先駆的な研究があります。石垣島の宮良川流域 や川平湾周辺の石灰岩に40cmから2m以上の垂直な孔があり、この「円柱状痕跡」は、砂状石灰岩が堆積中に埋没したヤシ類の痕跡であると考えられていま す。そして米原のヤエヤマヤシの原生林は、地質時代の化石林の遺物である可能性があるという結論に達しました。その後、孔あき岩に関心を示す人はいました が、学術的な解明はなされないままでした。
 私はこの孔をポットホールと考えています。ポットホールとは、川底や海岸の岩の表面にできた円形の深い孔のことで、甌穴(おうけつ)と も言います。川や海に面した岩盤に割れ目や凹凸があると、その窪みにはまった小石が川や海の水の渦流により、窪みの中を転がり円形の深い孔を作ることがあ ります。例えば、西表島の浦内川上流で、川底の硬い砂岩にあいた多くの垂直な孔を見ることができます。直経 30〜50cm、深さは3〜4mあり、落ちたらそれこそ命取りです。また国頭村安波の普久川中流にあるタナガーグムイ付近にも大小20個以上のポットホー ルがあります。この川では上流のダムにより水量が調整されていますが、増水すると大小の(れき)が勢いよく運ばれ、現在でも孔の中で小石がグルグル回っています。私は、タナガーグムイのこの直経10m余のクムイも巨大なポットホールと考えています。
 海水の働きによると思われるものは、西表島の大原(港の浚渫工事で多数の孔あき石灰岩塊が引き上げられている)、沖縄本島古宇利島の北海岸、そして宮古 の池間島と大神島にあります。池聞島では、東から北東にかけた海岸側の岩にほぼ連続して形成され、人工的な感じがします。大神島では、西海岸側で観察さ れ、転がり落ちた岩は蜂の巣を思わせます。孔あき岩についてまとめると、次のようです。
@ 孔あき岩は、塊状サンゴ礫を含む再結晶作用の進んだ砕屑性石灰岩であり、まれに深い海で生息していた大型有孔虫化石が含まれます。
A 岩の孔は、単独あるいは近接した範囲に数個集中して形成されています。
B 孔の横断面は、数本の円柱を束ねたような複雑な形態を示すものがあります。
C 孔は、垂直に形成されているが岩を貫通し基盤岩に達したものは確認できません。
D 孔の内面側の化石サンゴは内面の形にあわせ浸食されたように弧状になっています。
E 孔の縦断面はほぼ同じ大きさですが、まれに浸食され樽状になったものがあります。
F 孔あき岩の近くに形成中のポットホール、あるいはベルホールがしばしば発達しています。ベルホールは、石灰岩体のノッチの天井側にできたもので、ポットホールを逆さにした形態で、成因はよく分かっていません。
 先日、前田教授がこ高齢にもめげず来沖され、石垣島まで調査に行かれました。公務のためこ同行することはできませんでしたが、学者としての執念を強く感じました。ポットホールではと申し上げたかったのですが、もう少し資料を増やしてからと思い断念しました。
(大城逸朗)

4 洞穴に秘められた謎

 洞穴は、沖縄では一般にガマと呼ばれることが多く、以下、(どう)穴、 アブ、そしてガーの順です。宮古ではアブあるいはアボー、ガーあるいはガラと呼ばれます。ガマは、規模の大小を問わず横穴を指し、アブはたて穴あるいは上 から見下ろすような洞穴のことで、石垣島や小浜島ではアボーと訛ります。ガーは、泉や井戸を意味する方言で、とくに泉はその発達の様子から降りカー(ウリ カー、地下へ降りるような泉)、暗川(クラガー、地下の暗いところの泉)、アブガー、アンガー、エーガー(エーは溝や谷のこと)などと呼ばれ、それがその まま洞穴名になったところもあります。洞穴を示す言葉で珍しいのは、久米島のヤー、宮古島のコーザ、スク、池間島のシィー、石垣島のイザー、イーザー、与 那国島のダヤー、それに波照間島のインなどがあります。
 洞穴とは、人間が入れるだけの大きさをもった地下の空間のことで、また、洞穴の入り口の一番広い部分の幅が、奥行きや深さよりも短いものを指し、一般に人工的に掘られた防空壕などは洞穴とは言いません。
 1978年から3年間、沖縄県教育委員会が実施した洞穴実態調査では、県内に600か所以上の洞穴が確認されています。さらにその後の情報を加えると、 1,000か所を超えるようです。沖縄県にはどうしてこのように洞穴が多いのでしょうか。その理由は、水に溶けやすい石灰岩の地層が広く厚く分布している からです。降水量の多い本県では、地表を流れる水は、朽ちた植物や動物の呼吸作用に由来する二酸化炭素を溶かした弱酸性の水となり、これが石灰岩の成分と 化学反応をおこ し溶かすからです。
 宮古島や周辺の島々は、全域石灰岩の地層からできています。そのため洞穴も多く平良市で12、城辺町12、上野村8、下地町6、伊良部町15、多良間村 3と、合計56か所が確認 されています。水は、石灰岩を溶かしながら次第に地下に浸透していき、基盤の粘土層で止められます。この2つの地層の境、即ち不整合部から水が湧き出した ところが湧水地です。
 平良市の熱帯植物園内の棚原洞穴は、歴史的にも貴重な洞穴です。1939年、リン鉱石の採掘中に象の化石が発見されました。当時はナウマン象の臼歯と鑑定されていましたが、 現在はアーキディスコドン象だろうといわれています。化石は、東京大学の総合資料館に良い状態で保管されています。城辺町友利の天川(アマガー)洞穴と上野村のピンザアブは、多くの絶滅動物の化石を産し、琉球列島の地史を解明するうえで貫重な手がかりを与えるなど学会へ多大な貢献をしています。
 伊良部町の洞穴は、15か所のうち半数は井戸を思わせるたて穴状の洞穴です。深さは-12mから-55mで、降りるのはそれこそ命がけです。洞穴の底に は絶滅したシ力化石や人骨があり、水の中ではエビや魚も確認されています。宮古島は横穴ばかりなのに、なぜ伊良部島にはたて穴が多いのか大変不思議で、そ のでき方を考えると興味がつきません。公園にあるシーソーのように、宮古島側が沈降するにつれ、伊良部島側が急速に隆起をしたのかも知れません。
(大城逸朗)

5 宮古島も「東洋のガラパゴス」

 琉球列島は、イリオモテヤマ ネコ、ノグチゲラ、ヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネなど固有の生物(その地域にしか生息しない生物)が多いことから「東洋のガラパゴス」と称されて います。ガラパゴス諸島は東太平洋に忽然と浮かぶ島々で、ガラパゴスゾウガメやイグアナなどの固有種が多いことで知られ、ダーウィンの進化論のきっかけと なった島です。
 固有種が存在するためには、海や大河、砂漠などで他の地域と隔絶されていること、その隔絶期間が長いこと、特有の環境であることなどが条件としてあげられます。
 琉球列島の生物は中国大陸との関係が深く、大陸と陸続きになっていたある時期に移動してきましたが、その後、数回の海進(海面水位が上昇する)や海退(海面水位が下がる)によって閉ざされたり、繋がったりして独自の進化を遂げたとされます。
 その地殻変動によって、琉球列島(南西諸島)の生物分布は図T-12に示したように2つの境界によって3つのグループに分けられました。そのひとつの境界はトカラ列島の中間にあり、提唱者の名前にちなんで「渡瀬(わたせ)線」と呼ばれ、もうひとつは沖縄本島と宮古島の間にあり「蜂須賀(はちすか)線」と呼ばれています。近年これら境界線の成因として、渡瀬線は中国大陸黄河流域の延長で、蜂須賀線は長江(揚子江)流域の延長であったのではないかという説が提唱されました。
 さて、琉球列島に位置しながらも宮古島には山岳や河川がないため、昆虫や水生生物は貧相であるとされ、研究者の間で軽視されてきました。しかし、近年、 新種のサワガ二(ミヤコサワガ二と命名される予定)が発見されたり、確認例が少ないオキチモズク(淡水性の藻類で国指定の天然記念物)の生息が確認された り、宮古地域の生物学的特徴も再認識されつつあります。なお、宮古島の固有種は、これまでに少なくとも20種類は報告されています(表T-3参照)。これらの調査研究は宮古島の成り立ちを考える上でも重要な意味を持ちます。また今後、新たな発見が期待されるところです。
(高平兼司)

6 風土と人のかかわり−島尻マージと宮古人(みやこびと)

  地域に住む人間の社会的行動と風土とは深いつながりがあるように思われます。一般に宮古地域の人々は団結が強く決断も早いと言われています。宮古島地下水 水質保全対策協議会の結成やその後の一糸乱れぬ活動をはじめ、新しい宮古空港の建設など、課題解決に対する団結力の強さや決断の早さには、確かに目を見張 るものがあります。私は、このような優れた特性は、祖先が農業を通して長期にわたる厳しい風土との戦いの中から生まれたものではないかと思います。
 宮古地域は、島尻マージという保水力の弱い土が広く分布しているため、干ばつの被害をうけやすいことで知られています。このような土を利用した農業を、 かんがい施設なしで、お天気まかせで行う場合には、雨とのかけひきが最も厳しいものとなります。特に芋が主食であった時代には、雨が降って十分に土が潤っ ている間に苗の植付けをしないと、食料の確保ができませんでした。
 その他の作物栽培もすべて土の状態に応じて作業をしなければならないので、必然的に宮古地域の農家は、雨の後に急いで多くの仕事を短期間に仕上げなけれ ばならない状況におかれてきたといえます。したがって、宮古地域の農家は共同作業や時機を逸しない作業のあり方など、どの地域よりも団結力と決断の早さが 不可欠であってきたわけです。
 このような風土との関わりの中で宮古地域に住む人々の行動様式も受け継がれてきていると思われます。祖先の苦労が実った尊い財産として、このような特性を今後も大切にしていただきたいと思います。
(大城喜信)

7 昭和初期の宮古島の水事情

 昭和初期の宮古島には水道施設は 無く、住民の使用する水はもっぱら井戸水か雨水に頼るしかありませんでした。それで集落の中には必ず井戸があり、井戸の深さは浅いところで数m、深いとこ ろでは20mかそれ以上あり、釣瓶で樽か石油缶に水を汲み上げ、家庭まで運んで使用している状態でした。そのため各家庭には水を溜めておくためのいろいろ な容量の水瓶がありました。また雨の降る日には、屋根から樋をつたって流れ落ちる雨をこの瓶に溜めて使用していました。ゆとりのある家庭では、縦横高さ 2mもあるコンクリートの水タンクを作って、これに雨水を溜めて使っていました。
 平良市は厚い琉球石灰岩の上にあるため、水はその層の下から汲み上げねばならず、住民はその作業に苦労を強いられました。その苦労のひとつが石灰洞の中 から水を汲み取る作業でした。井戸からの水は釣瓶で汲み上げますが、石灰洞からの汲み上げは18Lの石油缶2個を使い、これに水を満たして肩に天秤棒を担 ぎ、そして百段近い石の階段を地下深い水溜まりから地表まで担ぎ上げるのです。この40kg近い重荷を担いで階段を上がる作業は大変な重労働で、大きな苦 労でした。私はこの苦しい作業を旧制中学の1年から卒業までの5年間、兄達と分担して行った苦しい経験をもつ者で、その苦しい作業は体力の弱い者にとって は地獄の様な苦労でした。
 そのせいかこの重労働の代わりの仕事として水売り商売も繁盛していて、大きな木製の水タンクを積んだ荷馬車が、平良市の北の端の荷川取に在る湧き水の浅 い井戸から水を取水して、市内で馬車を引っ張って水を売り歩いていました。市内のある旅館では、市内の水質の良い井戸に、遊園地にあるような直径20m程 もある大きな水車を作り、これを人力で動かして水を汲み上げ、水道管の入手が困難だったのか、コンクリートで作った水道管で自分の旅館まで導水し水夕ンク に溜め、一般市民に売っていました。このように水を商品として売っても結構商売が成り立っていたものです。
 また市内の酒造所では、工場内の井戸に同じような直径10m程の小型の水車をしつらえ、この水車の輪の中に酒屋の使用人達が入り、その中で歩いで水車を回すことにより、水を汲み上げて酒造用に使っていました。
 当時の女子供にとってこの水汲み作業は結構な重労働であり、かつかなりの時間をこれに取られながら過していたものです。いま石灰洞の石段には、洞の天井から滴り落ちた水滴と水汲み作業によって、深く大きくへこみ刻み込まれた足跡により、その苦労の蹄が如実に忍ばれます。
(兼島清)

8 宮古島水道誌(宮古島上水道組合発行、1967年)

 宮古島水道誌は宮古島全島水道化を記念して発刊されました。この本には発刊されるまでの宮古の水事情が多方面からとり上げられており、さらに将来における宮古の水利用のあり方なども論じられていて、すぐれた文献です。
 編は12編にわたっており、それらの内容は以下の通りです。第1編で宮古のあらまし(宮古諸島の名称、地勢と地質、気候、人口など)、行政のあゆみ(天 太、按司時代から戦後のあゆみまで)、第2編で沿革(宮古島上水道組合が設立されるまでの宮古島における水利用方法や行政の経緯)、第3編で組合(宮古島 上水道組合の説明)、第4編で管理局(宮古島用水管理局の説明)、第5編で宮古島の水資源(ハワイ州ホノルル市水道局、J.F.Mink氏が、1963年 12月に宮古製糖株式会社へ提出した、宮古島の水理についての本格的な調査結果で、興味深い内容)、第6編で宮古島水道マスタープラン、第7編で水源(白 川田など8か所の湧水の紹介、水源の開発、宮古島地下水保護管理条例など)、第8編で水質(1966年ボーリング井戸水の水質調査報告、宮古島の水質及び 石灰岩に関する報告、水系伝染病など。この編には琉球政府企画局、琉球工業研究指導所化学室、宮古保健所などの調査結果が報告されており、宮古島における 水質の基本的なデータを提供している)、第9編で開発をまつ離島(池間島、来間島)、第10編で畑地かんがい、第11編で宮古島畑地かんがいマスタープラ ン(米国陸軍工兵隊沖縄分遣隊の編纂)、そして第12編では消防と水利があげられています。このように目次のあらましだけをみても、今日の宮古島の水状況 を考えるのに、貴重な資料を提洪していることがわかります。
(渡久山章)

9 宮古の水と人の力

 宮古島は自然の水に恵まれた島と思われま す。そのことは島の北側、白川田湧水へ行ってみるとわかります。白川田湧水と隣の山川湧水の2 か所から採られている水は、宮古島で使っている全水道水の70%ほどを供給しています。湧水はそこだけではありません。白川田湧水から東へ向かっていく と、いくつもの湧水があり、東平安名崎のつけ根をまわると保良ガーがあり、そこから南へ向かって歩いても、多くの湧水に出会います。ムイガーも有名です ね。これら湧水の他、平良市内で多く見られる洞穴井(オリガー)がありますし、城辺町比嘉のオプカーなどに見られる地表面で湧出している湧水もいくつかあ ります。自然の水の豊かさに加えてメモしておきたいのが人の力です。
 上野村高田に大正から昭和にかけて掘られた大昭井戸というのがあります。深さは47mもあります。訪ねると記念碑も立てられています。掘った人3人、発 起者5人、賛助者10人と人々の名前もきざまれています。そんな深い所へ毎日降りたり昇ったりするだけでも勇気と刀が必要です。井戸の側に立っていると、 人の力のすごさを感じずにはおれません。高田にはこの他にも深さ40mクラスの井戸が、あと2つあるそうです(宮古島水道誌、宮古島上水道組合発行 1967年)。全体としては自然の水に恵まれた島ですが、こんな深い井戸をみていると、水道が普及する前の人々は水を得るのにどれほど苦労していたかもわ かってきます。
 人の力のすごさは深井戸だけではなく、ツガガーと呼ばれでいる井戸や洞穴井の周りを石積みなどで整備した状態をみても感じます。
 図T-26に は上野村野原のマイヌカーの模式図を示しました。地表から5〜6m降りていくと、縦横5mのツガ状マスが作られていて、その中に直径165mの井戸が掘ら れています。側には直径2mの円筒状の石垣で囲われた部分があり、水浴した所ではないかと思われます。ツガからさらにスタヌカーへの石段も作られていま す。もともと洞穴であったとしても、これほど整備した人の力には驚かされます。その他平良市の西地盛ガー(図T-27)、大和(やまと)ガー(図T-28)、謝万(図T-29) などの整備状況を見ても、人の力のすこさが伝わってきます。宮古島の先人達は水を大事にしていたことがわかってきます。
(渡久山章)

10 汗の成分

 私たちの体は、外気温の変化や体内の熱生産の多少に関係なく、ほぼ一定の体温に保つことができる体温調整機能を有 しています。例えば25での室温に裸でいた場合、輻射(おもに赤外線として放散され、外気温が低い場合に起こる)で160%程度の熱が放出され、水分蒸発 により、不感で25%程度、空気への対流や接触部分の熱伝導から15%程度の熱が放出されるようです。これらを物理的調整とも呼んています。 放出された分は、体内で熱生産されていることになります。
 これが、外気温の上昇や運動などによって体内での熱生産量が多くなり、物理的調整では熱放散が間に合わなくなると汗をかき、汗の気化熱で体温を奪い体温 調整を行います。これを温熱性発汗としいい、全身の皮膚に分布するエクリン腺から分泌されます。汗は、その99%以上が水分で、その他の有形成分として は、食塩、尿素、乳酸などを含んでおり、尿の成分とよく似ています。(表U-2参照)。
 汗腺には、他に腺細胞自体が破壊されて分泌される形のアポクリン腺があり、中性脂肪、脂肪酸、コレステロール、鉄分などを含む液を分泌しますが、乳頭や 外陰部に限定され、体臭と密接な関係があります。ヒト以外の哺乳動物では、エクリン腺は趾球(足裏の肉の部分)にしか存在せず、ウマなどの汗はすべてアポ クリン腺から分泌されます。
 発汗には、その他、腋の下、手のひら、足の裏などにかく精神性発汗(冷や汗)やとうがらし・激辛カレーなどの辛味や酸味の強いものを食べたとき顔面にかく味覚性発汗などがあります。皆さんも経験があるでしよう。
(高平兼司)

11 塩分にどこまで耐えられる?

 地球上に存在する水の約96.5%は海水ですが、私たちはのどが乾いたからといって海水を飲むわけにはいきません。塩っぽい海水を飲むと浸透圧の関係で体内の水分が体外に出てゆき、かえってのどが乾くことになります。
 海水の塩分濃度は35,000ppmとされますが、WHO(世界保健機構)では人間の飲料水中の塩分濃度に関する基準の上限を500ppmと定め、限界 値は1,500ppm程度としています。したがってこの上限値は海水濃度の70分の1になりますが、ウマやウシなどはヒトよりも高めの塩分濃度にも、また 砂漠にすむラクダに至っては海水以上の塩分濃度にも耐えられます(表U-4参照)。
 一方近年、米国や旧ソ連域内などにおいて、もともと乾燥地であった土地を地下水などでかんがいして農地化した結果、地下にあった塩分がかんがい水ととも に地上に浮き出してきた事例が報告されています。作物にとって、かんがい水中の塩分濃度の上限はおよそ3,000ppm程度とされています。宮古島ではこ のような現象は起きないでしようが、地下水の下部に海水が浸透している伊良部島や多良間島では、地下水を汲み上げすぎると塩分濃度の上昇が心配されます。
 なお、作物には3,000ppmよりも高い塩分濃度に耐えられるものもありますが、これは「耐えられる」ということであって、一般には、塩分濃度が高くなれば生産量は減少します。

※ 浸透圧とは:細胞内の濃度が周囲よりも高いと濃度バランスを保とうとして周囲から水分を吸収して細胞内の濃度を下げようとするはたらきがあります。逆に、 細胞内の濃度が低いと水分を細胞外に出して濃度を上げようとします。この時、細胞膜は水分だけを通して塩分などの物質は通しません。このような膜を半透膜 といいます。このように、半透膜の両側で生じる圧力差を浸透圧といいます。
(高平兼司)

12 水と氷はどちらが重い?

 冬、寒い北海道などで湖の表面が凍っていることを、テレビなどで見たことがあると思います。そうです、氷は水より軽いのです。どれくらい軽いかを図U-3に 示しました。ここでは氷と水の密度をセッ氏-4℃から+20℃にわたって調べた結果を示しました。水の密度が最も大きいのはセッ氏4℃で1.0000に近 くなり、4℃以上になると急減していきます。4℃以下でも少し減ります。0℃の水は0.9999くらいです。それに対し0℃の氷の密度は0.9171くら いです。0℃で氷の重さは水のそれの91.7%です。そのため、氷は水に浮くわけです。氷が水に浮くため、寒い地方の湖などで水面は凍っても、下は水のま まで動物や植物も生存できます。もし氷が水より重くて沈むと、湖全体が凍ってしまい、生存できない生物が多くなってしまいます。氷が水より軽いために生物 の世界は豊かになっているといえます。
(渡久山章)

13 水はものを溶かす能力が大きい

 水の性質の1つに"ものを よく溶かす"ということがあります。そのため雨水、河川水、地下水、海水には多くの物質が溶けています。水のこのような性質は、水の構造と関係がありま す。水は1個の酸素原子と2個の水素原子からできています。それらがどのようにして水を作っているかを、図U-8に示してあります。ここで電気的に酸素原子側はマイナスに、水素原子側はプラスを帯びているということが大事です。水のこのような状態を分極しているといいます。
 水は分極しているため、いろいろなプラスイオンやマイナスイオンと結びつくことができます。例えば、ナトリウムやカルシウムなどの陽イオンは水の酸素原 子側とくっつき、塩素や硫酸などの陰イオンは水素原子側とくっつきます。陽イオンや陰イオンが水とくっつくことを、水和といいます。図U-9にナトリウムイオンと塩化物イオンが水和している状態を示しました。水はいろいろなイオンと水和する性質があるため、いろいろな物質を溶かすことができるのです。
(渡久山章)

14 地球上の水を日本の上に積み上げてみると?

地球上に存在するすべての水(約14億km3表U-8参照)を日本全土に積み上げると、その高さは約3,800kmになるほどのぼう大な量です。しかし、このうち淡水は約35,000km3、全水量の約2.5%で、日本の上にわずか90kmの層をつくるに過ぎません。(図U-10参照)
(中西康博)

15 川の水や地下水はどこからくるの?

 地球上の水というとその約97%は海水です(図U-12参照)。海水は工場で冷却水として使われたり、気温を 15℃に保つのに大事な役割をになったり、二酸化炭素を減少させるのに大事だったりと、とても大事な溶液です。
 そしてもうひとつ、私達人間を含め陸地の動植物にとって大事なのは、川の水や地下水です。
 ところで川水や地下水があるためには、どんな条件が必要でしようか。川水や地下水の源は雨です。でも、水は蒸発する性質をもっています。もし降水量と蒸 発量が丁度同じなら川や地下には水はないはずです。そんな所は砂漠のようになってしまいます。従って川や地下に水があるためには、蒸発量より降水量(雨 量)が多くなければなりません。図U-12にはこのことも示されています。この図は地球上のどこにどれだけ水が存在しているかということと、それらが循環している様子を示しています。
 陸地をみると降水量は0.99×1020g/年であるのに対し、蒸発量は0.63×1020g/年であり、0.36×1020g/年が河川水や地下水になっていることがわかります。そのうち90%近くが河川水(0.32×1020g/年)です。地下水はたかだか10%くらいです。
 陸地ではこのように降水量が蒸発量より多いのですが、どのようにしてこんなことがくり返されているのでしようか?
 図U-12に示したように陸地における降水量と蒸発量の差は海から供給されています。海では蒸発量が0.36×1020g/ 年だけ多いのです。陸地に川や地下水があるのは海から供給されているからといえます。海から供給された水が私たちの生命を支えているのです。「海は人の母 である」(安里清信著、晶文社、1981年)という本がありますが、水が海から供給されていることを考えてもこの言葉は正しいと思われます。
 図U-12に示したように海から陸に供給された0.36×1020g/年の水は、川や地下を通してまた海に戻っていきます。水はこのように陸と海とを行き来しながら、私達の生命を支えているのです。
(渡久山章)

16 「酸性雨」って何?

 雨水、河川水、地下水、海水などをま とめて水溶液といいます。水溶液の性質のひとつに、酸性、アルカリ性というのがあります。酸性とはペーハー(pH)が7以下の場合であり、アルカリ性とは 7以上の場合を指します。pHが7の場合、中性といいます。ところが、近年の環境汚染のひとつである酸性雨は、雨のpHが7以下の場合に酸性雨と判断する のではなく、pHが5.6以下の場合です。このことは空気中に含まれている二酸化炭素(炭酸ガス)に関係します。二酸化炭素は炭酸ガスと呼ばれることでわ かるように、水に溶けると酸性を示します。炭酸ガスがたくさん溶けるほど、その水溶液のpHは低くなり、酸性度が強くなります。空気中には炭酸ガスが約 0.036%含まれているので、空気と接している水のpHは、この炭酸ガスが溶け込むことにより5.6まで低下するのです。したがって、空気が汚れていな いところ、つまり自然条件下においても、雨のpHは5.6まで下がります。
 一方、人間活動の影響が強いところ、例えば工場や自動車などがたくさん動いている地域では、しばしばpHが5.6以下の雨がみられます。これがいわゆる 酸性雨です。雨のpHが4前後まで下がる場合も近年ではめずらしくありませんが、そんなに低いpHになるのは石炭や石油を燃やしたときに発生する硫酸や硝 酸が空気中に含まれていて、それらが雨に溶けるからです。
 日本本土の場合、図U-14に示したようにpH5以下の雨が降っていることがわかります。沖縄の場合は図U-15に示したように1991年から1994年までのpH値は5.24から5.93で、5以上です。沖縄には大きな工場が少ないこと、島が小さくて自動車からの排ガスなどが海に流されやすいこと、海洋の影響(海水のpHは約8.3でアルカリ性)が大きいことなどが考えられます。図U-16には沖縄におけるpHの季節変化を示しました。冬に低くなり、春から夏にかけて高くなることがわかります。この原因を考えるのは、大事なことです。
(渡久山章)

17 石灰岩の溶解量

 宮古島の島々は主に石灰岩で作られています。石灰岩の主成分は炭酸カルシウム(CaCO3)です。炭酸カルシウムは水に溶けるとアルカリ性を示し、二酸化炭素を含んだ水にはいくらか溶けます。そのため宮古島や伊良部島の地下水にはカルシウムイオンが85〜95mgL-1溶けています。これらはほとんどが石灰岩から供給されたものです。カルシウム濃度をもとに1Lの水に溶けるCaCO3量を計算しますと、0.20〜0.24gとなります。1Lに溶ける量がわかると、例えば宮古島全体で1年間に溶ける岩石量を計算することができます。
 いま宮古島(160km2)の年間降水量を2,200mmとします。このうち40%が地下水になるとしますと、1年間に地下水となる水量は1.4x1011Lです。そうしますと1年間に宮古島全体で溶けるCaCO3量は(2.8〜3.4)x104gとなります。これをトン数に直しますと、(2.8〜3.4)×104トンとなります。
CaCO3の密度は2.6くらいですから溶け去る岩石量を高さに直しますと、1年間に(0.67〜0.81)×10-2cm、1000年間で6.7〜8.1cm、10万年間で6〜8mに達することになります。
(渡久山章)

18 海水と血液の成分

 一般に海水と血液の成分は似ているといわれています。ここでは、このことを考えてみましよう。
 海水の成分については第U章の4「水には何が溶けているの?(海水)」で述べました。そこには「海水1Ikg中にはナトリウムイオンが10.79、塩化物イオンが19.39で2つを合わせると全溶存イオンの86%を占めています。」と書かれています。
 それでは血液の成分はどうでしようか?
 実は血液は大きく分けると赤血球、白血球、血小板などの細胞成分(45%)と、血しょうと呼ばれる液体成分(55%)になります。そのため海水成分と比 較する場合には、血しょう成分をとりあげることになります。血しょうには種々のタンパク質、炭水化物、脂質などの他、0.9%の無機塩類(ナトリウムイオ ン、カリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオン、炭酸水素イオンなど)が含まれています。これらの中で、海水の成分と比較する場合は、0.9%の無 機塩類が問題になります。0.9%の内訳をみますと、ナトリウムイオンが142ミリ等量、塩化物イオンが103ミリ等量になっています。これらを海水の成 分と同じようにパーセント単位に直しますと、ナトリウムイオンが36.3%、塩化物イオンが40.5%となり、合わせると77%となります。
 海水では全溶存成分のうちナトリウムイオンと塩化物イオンの2つで、86%を占め、血しょうでは約80%を占めているということは、海水と血液の成分はほぼ似ているといえるでしょう。
 そのため生理食塩水(0.9%の塩化ナトリウム溶液)やリンゲル液(ナトリウムイオンが147等量、塩化物イオンが156ミリ等量:海水と同じように パーセント単位に直しますとナトリウムイオンが36.8%、塩化物イオンが60.3%で2つを合わせると97%)など、塩化ナトリウムを主成分とする海水 の組成に似た溶液が医療現場で使われています。
 ただし、「水には何が溶けているの?(海水)」 の項で述べられているように、海水の塩類濃度は3.5%(35gL-1)であるのに対し、血しょうの塩類濃度は0.9%ですから濃度としては血しょうの塩類濃度は海水の4分の1くらいになります。
(渡久山章)

19 水使用形態の区分

 水の使用形態は、図V-3に 示したように大きく「農業用水」と 「都市用水」に区分されます。農業用水にはかんがい用水や畜舎用水、場合によっては養魚用の用水も含みますが、ため池など何らかの施設を有するものとしま す。すなわち、降水をそのまま農業に利用する分は含みません。都市用水は「工業用水」と「生活用水」に区分されます。一般に農業用水と工業用水は「飲料 水」にはなりません。
 生活用水は、家庭で使用する「家庭用水」と事業所などで使用する水や公共用水、消火用水などの「都市活動用水」に区分されます。工場での飲料水も都市活動用水に当たり、一般には上水道によって供給されます。
(高平兼司)

20 水と料理

 水はカルシウムとマグネシウム濃度、すなわち水の硬度の違いにより、硬水と軟水に大別されます(第U章の3のことば参照)が、水の硬度と調理にはどのような関係があるのでしよう。
 まず一般的に、硬水は調理には適していないとされています。これは、硬水に含まれるカルシウムやマグネシウムが食品の主成分であるタンパク質、炭水化物 や脂質と結合し、例えば、肉や豆などを使った料理の口あたりを悪くするためです。同様に、硬度の高い水でかつおや昆布のだしをとろうとすると、だしの成分 になるアミノ酸やペプチドがカルシウムやマグネシウムと結合してしまい、せっかくのうまみ成分が水に溶けなくなってしまいます。そこで硬水の多いヨーロッ パや中国では、鶏、豚、牛などのガラを長時間煮込むことによって、硬水中のカルシウムやマグネシウムをあくとして取り除いてから調理を行ったり、水蒸気や 野菜自体から出る水分や、ワインや牛乳を用いるなどして、硬水を直接用いない調理方法が定着しています。
 一方、軟水が主体の日本では、かつおぶしやせぐろいわしの煮干し、昆布などのうまみを軟水で溶け出させることによりだし汁をつくり、これをさまざまな調 理に利用する方法が定着しています。また、だしをとるということは、本来軟水中には多く含まれていないカルシウムなどのミネラルをだし汁に添加する効果を ともないます。
 このような水と料理との関係は同様に、日本茶、紅茶、中国茶といった飲料と水との関係にもあてはまります。日本茶は軟水との相性がよく、硬水でいれてもおいしくはならないわけです。また日本酒とも関係があり、硬水を用いて醸した酒は辛口に、軟水は甘口になるようです。
 宮古地域の水は硬水であるために、調理はヨーロッパや中国に似た方法が取られてきています。例えば、宮古そばの汁は主に豚骨でとるため、そばというより はラーメンに近いスープになっていますし、従来、宮古地域の一等のこちそうは、ヤギや牛肉の煮込み料理とされています。また緑茶を飲む習慣が定着していな いのは、宮古地域の水は硬水であるからでしよう。
(中西康博)

21 「水道水」って何?

 水道水はひとくちにいうと、水道法で 定められた水と定義されます。水道法は、「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与することを目的」としてい ます。そのため、水道水供給のために、水道事業の設置や責務、水質基準、水道施設の基準、管理運営等が定められています。したがって水道水とは、水道事業 者によって生産され、浄水施設で浄化し水質管理された水であるといえます。
 そのため、安全で清浄な水を、安定的かつ継続的に供給するためには、水道水源の水質を水質基準に適合させ、かつ安定的に水道水を供給できる施設を整備する必要があります。
 水道水源を選ぶ場合には、水資源活用のための十分な量があるかどうかを判定し、また水利権を確保しなければなりません。
 こうして開発された水資源は取水・導水されて浄水場で浄化されます。このとき浄水場を経れば水質基準に適合した水質が得られるような浄水施設を設置して、これを適正に管理し、また随時水質検査を行うことにより水道水は生産されます。
 水道水は細菌学的に殺菌されており、また科学成分的にも管理された清浄な水ですから、「生水」ではなく「水道水」と呼ばれます。したがって、生水の沸し 水は細菌学的には殺菌された水になりますが、質的管理の面で水道水とは異なります。また市販のボトル水は、細菌学的な安全さが求められている水であり、食 品として取り扱われている水です。これは水質基準の枠外であり、安全性との関連性も無く、水道水とは違う水です。
(幸喜稔)

22 水道の種類

 私たちの生活に欠かせない水を、十分かつ安全に供給してくれる水道事業は、規模によっていくつかの種類に分けられます。
 まず、計画給水人口が5,000人を超える水道を「上水道」と称します。宮古地域には、宮古本島部(宮古島、池間島、来間島、大神島)を範囲とする「宮 古島上水道企業団」と、伊良部町の水道事業があります。一方、計画給水人口が100人を超え5,000人以下の規模の水道を「簡易水道」と称します。宮古 地域では多良聞村の水道がこれに当たります。
 また、寄宿舎や社宅などでの自家用水道で居住人口が100人を超える水道を「専用水道」、水道事業用に給する水道から供給される水のみを水源とし、受水槽の容量が10m3を超えるものを「簡易専用水道」と称します。その他、給水人口が50人以上100人以下の施設を「飲料水供給施設」と区分されています。
(高平兼司)

23 有効水量と有収水量

 水道事業者から供給された水が 100%使われることはめったにありません。これは、供給途中で漏水などが生じるからです。ちやんと軒先までたどり着き有効に使用された水を「有効水」と いい、そうでない水を「無効水」といいます。総供給(配水)量に対する有効水量の割合を「有効率」といいます。わが国では、漏水を起こしている個所などの 修復が年々進み、近年の有効率は86%を超えています。沖縄の有効率は約95%と全国平均より高く、優秀な地域とされます。宮古島では92%(1997 年)程度です(図V-11参照)。
 一方、家庭用水道や事業所・営業用の水道などは有料です。これらを「有収水」といいます。これに対し、公衆飲料や消火用の水道など公共性の高いものは無料であり、これらは「無収水」と称されます。有収水量と無収水量の合計が有効水量となります。
(高平兼司)

24 一般家庭での水の使いみち

 家庭用水の用途について、東京都水道局では、炊事、洗濯、風呂が23%から24%、水洗式トイレに21%、洗面・その他 に8%が使用されていると報告しています。
 沖縄県の場合にはこれまで報告例がみあたりませんが、沖縄県などが発行しているパンフレットなどをまとめると、図V-14に示すように炊事に1人1日50L程度、洗濯に100L程度、入浴に70L程度、トイレの水洗用に50L程度、その他が10L程度と推定することができます。合計で280Lになり、沖縄県の平均使用量(260L) と宮古島での平均使用量(約300L) とのほぼ中間の値になります。
(高平兼司)

25 家庭用水使用量増加の背景は?

 近年、沖縄県における家庭での水道使用量が増加してきています。とくに宮古島での増加が目立ちます。その背景には図V-15に示したようにまず水洗式トイレの普及が考えられますが、図V-16に示したようにその普及率から算定した水洗用水使用量の上昇以上に水道使用量が増加してきていることから、これ以外の原因も考えられます。水の使い方が贅沢になりつつあるといえそうです。
(高平兼司)

26 川とダムの国際比較

 日本の河川の特徴は、まず急流が多いということでしよう。図V-19をみるとこのことがよく分かります。
 また河川の性質をあらわすものに河状係数(河況係数ともいいます)という指標があります。これは河川の流量の季節的な変動を示す指標で、1年のうちの最大流量を最小流量で割って求めます。つまり河状係数が小さいほどその川の流量は安定していることになります。図V-20に みるように、大陸の大河の河状係数は小さいのですが、日本の河川の場合、この値がきわめて大きいのが特徴です。日本では台風や梅雨時期には豪雨が降りやす い一方、冬には渇水しやすくなること、河川の勾配が急なため、豪雨でもたらされた雨が短時間のうちに海に流出してしまうことがその背景にあるようです。
 次にダムの大きさについてみてみましよう。日本最大のダムは、現在のところ福島県の奥只見ダムで、その貯水容量は4億5,800万m3ですが、世界最大のダムであるオーウェン・フォールズダム(アフリカのウガンダにある)の貯水容量は、2兆7,000億m3もあります。奥只見ダムの約6千倍の容量です。日本のダムの貯水容量をすべて合わせても、204億m3に しかなりません。わが国の河川は勾配が急で谷幅が狭いので、大きなダムはつくれず、ダムの容量を増やすには、同じ河川や水系にいくつものダムをこまめに造 る必要があるのです。一方、地上ダムの建設は、適地の減少や生活場所の水没、自然環境へ及ぼす影響等の問題があり、一層困難になってきています。地下水や 処理水、雨水の雑用水利用などの重要性は、今後ますます高まることでしよう。
(中西康博)

27 日本の降水量は減ってきている!?

 図V-21は、 明治30年から約百年間における日本の年降水量の変化をみたものです。これによると日本の年平均降水量は約1,630mmですが、傾向的には、減少しつつ あることがわかります。降水量の推移を直線回帰した式によると、わが国の年降水量はこの百年で約100mmほど減少したことになります。また昭和40年代 頃から、降水量の多い年と少ない年との開きが徐々に大きくなってきていて、地球温暖化による気温変化とともに、降水量の変動幅も大きくなってきているよう に思われます。
(中西康博)

28 水中の環境ホルモン

 最近の環境問題に関するトピックスの ひとつとして、環境ホルモン(「正式」には「外因性内分泌撹乱化学物質」)がよく話題になります。私たち生物の体内では、様々なホルモンが、生きていくた めに必要な生体の微調整を行っています。環境ホルモンとは、環境中(私たちの身の周り)にあって、体内に入るとホルモン系のはたらきを妨害したり、誤った 方向に進めたりする化学物質のことで、その結果として動物のオスがメス化したり、逆にメスがオス化したり子宮や精子に異常が出たりなどと、様々な深刻な影 響が指摘されています。
 これまでの研究から、たくさんの物質が環境ホルモンとして作用するのではないかと疑われ、環境庁では、特に約70種類の物質について重点的に調査研究を 進めています。環境ホルモンの厄介なところは、これまでの有害物質の概念を覆すようなごく微量で作用があり、その中にはこれまで安全と考えられ汎用されて きた物質も多数含まれるという点です。私たちの現代生活はもはや合成化学物質なしでは成り立たなくなっており、いわば私たちは環境ホルモンと疑われる物質 が多量に使われる真っ只中で生活しているわけです。
 例えば、河川水中などで分解してノ二ルフェノールなどの環境ホルモンを生成するアルキルフェノール・エトキシレートという一群の化学物質は洗浄剤などの 成分です。少し前までは家庭用の合成洗剤にも普通に使われていましたが、環境ホルモンが問題になってから、スーパーなどの店頭に並ぶ商品からはパッタリ見 られなくなりました。ところが、食堂などで使われる業務用の洗剤には依然たくさん使われています。また、フタル酸エステルという一群の化学物質はプラス チックの可塑剤で、ほとんどのプラスチック製品に添加されています。農業用のビニールシートにも、もちろん入っています。さらにビスフェノールAやスチレ ンというような物質に至っては、私たちがよく使うプラスチック製品の原料そのもので、学校給食の食器やほ乳びんからさえもこんな物質が溶け出してくるので はないかと心配されています。
 一方、環境ホルモンには、必ずしも工業的に合成したのではない物質も含まれます。例えば猛毒のダイオキシンも環境ホルモンの一種ですが、これは物を燃や す時に、燃焼条件次第で勝手に生成してしまう物質です。また、人や動物の糞尿にはもともと体の中で作られた17β-エストラジオールというホルモンが含ま れており、畜舎排水や下水処理排水が流入する河川水中では強力な環境ホルモンとしての作用を現します。
 1998年に、環境庁と建設省は全国の河川や湖沼などの水に含まれる環境ホルモンを調査しました。その結果ほとんどの河川や湖沼で環境ホルモンが検出さ れました。沖縄県内では都市部を流れる国場川と長堂川が調査され、いずれにおいても様々な環境ホルモンが全国的に見て高いレべルで検出されました(表V-1参照)。私たちの通常の生活から、環境ホルモンは確実に放出されているのです。
 それでは地下水にはこのような環境ホルモンは混入しているのでしようか。環境ホルモンは新しい問題で、まだ多くの研究が現在進行途中にあります。今のと ころ、地下水については調査例も少ないようです。ただし、私たちが進めている研究によると、少なくとも糞尿が浸入している井戸の水などでは、先にふれた 17β-工ストラジオールによると思われるホルモン活性が検出されることがあります。
(田代豊)

29 水の硬度と害

 水の硬度は第2章3項の「ことば」で示したように、水の溶解しているカルシウムとマグネシウムの濃度により決定し、通常は炭酸カルシウムの当量として表示します。
 水のpHやアルカリ度にもよりますが、硬度が200mgL-1を越えると、特に暖房器具の中に沈積物を発生させます。一方、硬度が100mgL-1以下の軟らかい水は緩衝能力が低く、水道管を腐食させやすいです。
 飲料水の硬度と心臓血管の疾患との間に、統計的な有意な反比例関係があるということが、生態および分析疫学的研究によって示されていますが、得られた結 果はいずれも因果関係が存在すると結論付けるには不十分なものです。また極端な軟水を飲み続けると、人体のミネラルバランスに悪い影響を及 ぼすかもしれないという指摘も一部ありますが、それを検討するための細かな研究結果は得られていません。
 したがって現在、硬度についての健康を対象としたガイドライン値は示されていません。しかし、味や沈着物質を生成するといった点からいうと、硬度の高い水は利便性に影響を及ぼします。
(幸喜稔)

30 硫酸イオンと飲料水質

 硫酸塩は普通多くの無機物中に存在 し、商業的には主に化学工業で使われます。硫酸塩は産業廃棄物や大気中の塵に混じって水中に放出されます。地下水中の硫酸イオンは、主に天然物に由来しま す。飲料水からの硫酸イオンの摂取量が、食物のそれよりも多くなるような高濃度の地域もありますが、一般的には食物からの摂取量が最も多くなります。一 方、大気由来の硫酸イオンの摂取量は、無視できるほど小さいです。
 硫酸イオンは最も毒性の低い陰イオンのひとつですが、濃度が高いと、下痢、脱水症状、さらには胃腸の炎症を起こすことが確認されています。硫酸マンガンや工プソム塩(硫酸マグネシウム七水和物)は、長年にわたり下剤として用いられてきています。
 硫酸イオンに関しては、健康の観点からのガイドライン値は現在提示されておりません。しかし高濃度の硫酸イオンを含む水を飲むと胃腸に障害が出ることから、衛生当局は水道水源の硫酸イオンは500mgL-1を超えないように勧告しています。
 一方、飲料水中に硫酸イオンが含まれると明らかに味が異なり、その味の悪化は塩をつくる相手の陽イオンによって違います。味覚に刺激を感じない闘値(いきち)(限界値)は硫酸ナトリウムで250mgL-1、硫酸カルシウムで1,000mgL-1です。また蒸留水には硫酸カルシウムや硫酸マグネシウムを添加すると味が改良され、それぞれ 270mgL-1と90mgL-1で最適になると報告されています。
(幸喜稔)

31 水質基準と安全性

 水道水質の安全性と清浄さを保障するため、厚生省令で水質基準値が設けられています。
 水質墓準値は、新たな化学物質や農薬などの開発・利用や水質分析技術の向上など、変容する時代の流れに伴い、水道水の安全性保持のために計画的に改定されてきています。
 水質基準値は健康を害する濃度と安全率をもとに設定されており、対象とする毒性種としては、急性、慢性、遺伝、催奇、発がん性毒性等があります。こられの毒性には、ある一定濃度に達すると発病したり影響を受ける値(闘値(いきち)) がわかっているものと、蓄積量に応じて影響を受けるものとがあります。特に発がん性物質には闘値が無いものが多く、この場合、2Lの水を60年間飲み続け て蓄積する成分濃度により10万人当り1人に障害が発生すると推察される量を基準とし、その量の10%が通常水道水から取り込まれるものとして、水道から の摂取量が制限されるように水質基準値が算定されます。なお、このような水質基準値のもととなる症例はWHOで集める研究事例に基づいています。
 したがって、水質基準値に近い濃度の物質を含む水道水が直接的に健康に影響を及ぼすことはありませんが、水質基準値は、水道水として適性を欠く水質の改善を図る行政指標となるという意義をもっています。
(幸喜稔)

32 水中物質の大きさ−水問題に関する度量衡

 水中に存在する物質をあらわす度量衡をみると、濃度については%(百分率)、‰(パーミル、千分率)、ppm(百万分率)、ppb(十億分率)、ppt(一兆分率)が一般に使われています。
 このうちppmという濃度は、次のように考えることができます。1辺の長さが1mmの立方体は、その容積が1μLとなり、これに入る水の重さは1mgになります。この1mgの成分が1L中に含まれると、厳密には1mgL-1と表しますが、体積比として考えると1ppm と呼ぶことができます。これは飲料水や地下水等に溶けている硝酸性窒素やカルシウムなど論じる場合などに用いられます。
 次に1ppbという濃度は、1辺の長さが0.1mmの立方体、すなわち1nLの容積に入る水と重さが同じ1μgの成分が1L中に含まれる場台をいいます。これは水中に含まれる残留農薬の安全性を考えるときの濃度レベルです。
 一方、長さについてみると、光学顕微鏡で長さの限界は1μmです。この場合、重さは1pg程度です。これは大腸菌の重さとほぼ同じで、1L中にその重さの成分が含まれると1pgL-1と表し、今話題のダイオキシンの濃度などを論ずるときに用いるレべルです。このような僅かな量でもダイオキシンの分子の数として1千億個程度含まれることになり、現在わかっている中で最強の毒物といわれています。
 ところで海水中には全ての元素が含まれていますが、金(Aし)を例にとると、4×106mgL-1含まれています。これは約1ngL-1あるいは4,000pgL-1に相当します。
(幸喜稔)

33 クリプトスポリジウム

 クリプトスポリジウムは、胞子虫類 コクシジウム目に属する寄生性原虫で、人や牛、馬、豚、犬、猫、ネズミなど広く浦乳動物に寄生し、飲食物など経口摂取することで感染します。クリプトスポ リジウムを摂取すると、4〜10日の潜伏期間を経た後で、腹痛を伴う水溶性下痢が3〜7日持続し、嘔吐や発熱を伴うこともあります。
 患者の免疫機構が正常な場合、クリプトスポリジウムは増殖できなくなるため自然治癒しますが、免疫不全症患者や幼児・老人は下痢が続いて死に至ることが あります。クリプトスポリジウムは水道を通じてもまん延することが問題で、国外における水道水による感染事例としては、1993年米国のミルウォーキーで 40万人が発症し、400人余りが死亡しました。
 病原生物を滅菌し、その汚染を未然に防止する目的で、水道水は塩素の残留を絶対的に必要としていますが、クリプトスポリジウムは堅い殻で覆われた原虫で あるため、塩素やオゾン等の各種消毒液に対しても強い抵抗性をもっています。ところが、加熱、冷凍や乾燥に弱いため、1分以上の煮沸で不活性化することが できます。クリプトスポリジウムは人間の胃液でも死なないことから、他の細菌類との違いが大きく、水道にとって新しい課題となったわけです。水道事業にお ける対応としては、適正なろ過処理を行えば、クリプトスポリジウムを除去することができます。
(幸喜稔)

クリプトスポリジウムの主な感染事例

 ● 1987年 米国 ジョージア州 Carrollton
 ● 1989年 英国 Swindon - Oxfordshire 741,092人暴露、516人発症
 ● 1990年 英国 Isle of thaunet地域 177,300人暴露、47人発症
 ● 1992年 英国 オレゴン州 Jackson郡
 ● 1993年 米国 ウイスコンシン州ミルウォーキー 160万人暴露、40万人発症、400人死亡
 ● 1994年 神奈川県平塚市の雑居ビル 416人感染
 ● 1996年 埼玉県越生町 13,400人暴露、70%感染

34 化石水と温泉

 地層の堆積時に泥、砂、礫などの堆積物といっしよに地層中に閉じこめられた水のことを化石水といいます。石油や天然ガスを採取する際に出てくる水などがこれにあたります。化石水には塩分濃度が高くて、利用できないものが多いようです。
 温泉とは、科学的にいって、その土地の年平均気温より高い水温を持つ湧水と定義されています。一方、温泉法では、地中から湧出する温水・鉱水・水蒸気等 のうち、つぎの条件のいずれか一つを満たすものとされています。 @水温が25℃以上、 A溶存成分の総量が1g/kg以上、 B二酸化炭素、炭酸水素ナトリウム、硫化水素などの17成分のいずれかが所定の含有量を超えるもの、と定められています。したがって塩分濃度の高い化石水 は、水温が低くても、温泉法によると温泉となります。
 一般に、温泉が25℃未満の場合は冷鉱泉、25℃以上34℃未満は低温泉、34℃以上42℃未満であれば温泉、42℃以上であれば高温泉と区分されま す。以前は35℃を境に温泉と冷泉を区分しましたが、温泉法の制定後、冷泉の定義がはっきりしていませんが、一応、25℃以下の鉱物質を含む湧泉と考えて よいと思います。温泉水の溶存成分の起源は、海水・化石海水・マグマ水・変成流体、堆積物を含む岩石−水相互作用に求められます。そして、その水のほとん どは、天水起源の地下水です。熱源は火山性(マグマ)ですが、まれに非火山性(地温勾配に沿って上昇してきた深部地下水)の場合もあります。沖縄県那覇市 泉崎にある ロアジールホテルや浦添市健康増進センターにある温泉は、この夕イプ(非火山性温泉)に相当します。
(黒田登美雄・古川博恭)

35 地下水の湧水量を規定しているのは?

 図W-7には宮古島で最大の湧水であり、最大の水源でもある白川田湧水について、雨量と湧水量の関係を示しました。図中の数字は年度を示しています。例えば'83は1983年を、'94は1994年を示しています。この図には1983年以後12か年間の値があげられています。
 ただし2つの図のうち、下の方(a)の雨量(横軸)はある年の4月から翌年3月までの12か月間の雨量合計で、上の方(b)の雨量はある年の3月から翌 年2月まで12か月間の雨量合計です。それに対し湧水量(縦軸)は(a)、(b)共ある年の4月から翌年3月までの1年間の日平均値が示されています。つ まり(a)図には湧水量が測定されたと同時期における雨量との関係が、(b)図には湧水量が測定された期間より1か月前を含んで12か月間の雨量に対する 関係が目盛られています。
 これらの図から(a)(b)共、雨量と湧水量は関係が深いことがわかります。中でも(b)図の方が相関係数が高い(1990年の値を除くこと、0.965)ので、雨量と湧水量の関係はより深いといえます。
 このように湧水量はまず雨量によって規定されているといえます。前に述べたように(b)図の相関係数を求めるとき1990年の値を除きました。それは 1990年の値が他の年とずれ、湧水量が多くなっているからです。その理由を調べてみると、1990年には他の年に比べて月々の雨量のむらが少ないことが わかりました。湧水量は月々の雨の降り方(雨量)にも影響されているといえます。
(渡久山章)

36 宮古島白川田湧水の湧水量と雨量の関係 ―宮古島で初めての給水制限を経験して―

 宮古島全島に水道施設がつくられ、全島水道化が始まったのは1967年のことでした。それ以後1994年の1月まで27年間全面給水がなされてきました。その間の給水量は図W-8の通りです。この図を見ると1日1人当りの給水量は1973年から1982年まで直線的に上昇し、1982年以降1991年までは400Lとなっています。1人当りの使用量が増えても給水制限(断水)することなく、供給を続けてきたのです。
 ところが1994年1月になって、宮古島では初めての給水制限が行われました。その期間と給水制限時間は以下の通りでした。
1994年1月21日〜2月14日 → 1日8時間制限
     2月15日〜3月14日 → 1日10時間制限
     3月15・16日 → 1日8時間制限
     3月17日〜31日 → 1日6時間制限
     4月1日 → 給水制限解除
断水日は合わせて70日間でした。
 宮古島160kuに降る雨量は年平均で2, 250mmであり、それは1日当たりに直しても106トンになります。そのうち50%が蒸発し、10%が鉄砲水として海に流れ、40%が浸透して地下水になるとしても、1日当りの全島の地下浸透量は4×105トンになります。
 全島水道化が始まってから27年間も断水がなかったという実績と、雨量の地下浸透量に基づく計算から、宮古島は地下水の豊富な島であり、おそらく断水はないと思われていました。なのに断水せざるを得なくなったのです。
 ここでは、宮古島最大の湧水で最大の上水道水源でもある白川田湧水をとりあげ、当時の雨量と湧水量の関係を調べてみたいと思います。白川田湧水の集水面 積は8kuといわれています。雨量が平年並みであれば白川田集水域に集まる水は1日当り20,000トンになります。これは上水道供給量よりやや少ないく らいです。ところが1993年5月初めに12,550トン/日あった湧水量が図W-9に 示すように日とともに減少し、7月後半には1万t/日、8月末には8,000トン/日を割り、9月にはやや回復したものの10月からは又減少し、12月末 には5,000トン/日になり、1994年1月には5,000トン/日以下になってしまい、給水制限せざるをえなくなったのです。湧水量は2月になっても 回復せず、2月未には4,000トン/日さえ割ってしまいました。こんな状況はかつてなかったことで湧水量は大きな課題となりました。
 それで月降水量(mm)と白川田湧水量(トン/日)の関係を調べました。その結果を図W-10にあげてあります。この図は『地下水の湧水量を規定しているのは?』の項でとりあげた図W-7(b)を基に計算したものです。図W-10 から白川田湧水で日湧水量が例えばま1万トンを維持するには月降水量が135mmなくてはならないことがわかります。もし月雨量が100mmしかなけれ ば、日湧水量7,000トンも保てません。月雨量が70mmしかないと日湧水量は4,000トンも保てなくなります。このように、図W-10を使うと白川田湧水における湧水量の大まかな予測ができると思われます。
(渡久山章)

37 宮古島の水・伊良部島の水―塩分の違い

 宮古島と伊良部島は短い所だと4kmしか離れていません。それ程隣りどうしなのに、水のあり方は淡水レンズを紹介したところ(第W章1-(3)参照)でも述べられているように、大きく異なっています。宮古島と違って伊良部島では地表に湧出している湧水は1つもありません。伊良部島の人々は水を得るのにどうしても井戸を掘らなければならないのです。
 このような水のあり方の違いは水質にも影響しています。表W-4と5に宮古島と伊良部島の水の主成分濃度を示しました。この中できわだっているのは、伊良部島の水に塩化物イオン(Cl-)とナトリウムイオン(Na+)濃度が高いことです。塩化物イオンとナトリウムイオンの起源は海洋です。伊良部島の水には海洋起源成分が平均して2倍以上多いといえます。このことはマグネシウムイオン(Mg2+)と硫酸イオン(SO42-)濃度が高いことにも表れています。これらも主な起源は海洋なのです。
 隣りどうしなのにどうしてこんな違いができたのでしようか。伊良部島は標高が低く、石灰岩の層が厚いのです。もし伊良部島が宮古島と同じようにあと 20mくらい高かったら、湧水も出現し、水質的にも宮古島の水に近くなっていたと思われます。島の面積も広がることになります。これらのことは島の生い立 ちと関連があると思われます。
(渡久山章)

38 宮古地方の水―硬度の高さ

 宮古島や伊良部島の水は硬度が高いといわれます。それは水に溶けているカルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)濃度に由来しています。表W-4に示したように宮古島の水のCa濃度は70〜95mgL-1、Mgは1〜5mgL-1です。沖縄本島で硬度の低い北部の福地ダムの水を調べてみると、Caは9.6mgL-1、Mgは3.0mgL-1でした。日本全国の河川水の平均値としてはCaが12.5mgL-1、Mgが2.7mgL-1、世界の河川水の平均値としてはCaが20.4mgL-1、Mgが34.1mg-1と報告されています。宮古島の水のMg濃度は他地域と比べてそれほど違いませんが、Caは福地ダムの水、日本全国や世界の河川水に比べると、各々7〜10倍、6〜8倍、4〜5倍も高濃度です。
 宮古の水はお湯を沸かすとヤカンに湯あかがたまります。湯あかの主成分は炭酸カルシウム(CaC03)なのです。炭酸カルシウムは変わった物質で、温度が高いほど水に溶けにくくなります。それでお湯を沸かすと沈殿してくるのです(このことには水に溶けている炭酸ガスも関係するので、もう少し複雑です)。
 私たちはしばしば水をペットボトルに入れていくらか凍らせてから飲むことがあります(『氷の中に硝酸性窒素はどれだけ入るの?』参 照)。そのときペットボトルの底などに白い粉末が見られることがあります。それも炭酸カルシウムです。水を凍らすと氷の中にCaは入りにくく、凍らない水 部分に濃縮されます。それで炭酸カルシウムが沈殿してきます。それを見て「宮古の水は汚れている」という人がいますが、そうではありません。カルシウム分 が高いせいなのです。
 カルシウム濃度の高さは表W-5にも見られるように、伊良部諸島の水についてもいえます。宮古島ではこのようなカルシウム分を減らしたほうが良いということで、硬度低減化装置を設置し、自然のままの水よりも低硬度の水を水道水として供給し始めました(図W-11参照)。伊良部島でも新しい技術を導入して水道水を供給する体制ができつつあります。多良間島ではすでに平成10年度より逆浸透膜法などによって、低塩分、低硬度、低硝酸性窒素の水を水道水として洪給しています。生活用としての宮古の水は、今変化しつつあります。
(渡久山章)

39 宮古島の水道水源

 宮古島の水道水源のひとつである白川田湧水は、図W-6に示した白川田地下水盆にあります。この地下水盆は、水を透しやすい琉球石灰岩のブロックが断層運動によって落ち込み、その周囲を水を透しにくい島尻泥岩層により返られた天然の地下ダムといえます。図W-12には、宮古島における不透水性基盤模型図を示します。地下ダムを建設するためには、その立地条件として、このような水理地質構造が必要です。
(黒田登美雄・古川博恭)

40 地下ダム誕生の背景

 サンゴ礁の島、沖縄県宮古島で実用化 された土木技術が、今注目を集めています。それは、日本で生まれた「地下ダム」と呼ばれる技術です。そのアイデアは昭和の初め、京都大学農学部教授だった 可知貫一博士が「地層間貯水論」として唱えました。戦後になって、同じく京都大学工学部の故松尾新一郎教授が京都府乙訓(おとくに)地区において、地下ダムは可能だと提案しましたが、実現に至りませんでした。
 地表を流れる川のほかに、地下にも川があります。地下ダムは、これをせき止めて、地層のすき間に水を蓄えるという発想です。宮古島で実際に建設を考え て、まったく未知だった地下ダムを世に出したのは、筆者の一人である古川博恭(元琉球大学教授)です。川がない所にダムを造る―この発想の転換が、長所を 生んでいます。地下にしみ込んだ雨水を有効に使う。そして、ダムが砂で埋まることもありません。なんといっても、地下ダムの最大の長所は、「土地の水没が なく、地表は従来どおり利用できる」ということです。
 隆起サンゴ礁起源の 「小さな島じま」において、島じまのもつ水循環・水文地質などの自然条件の特徴に応じて、それぞれ特徴のある水資源の開発が可能という一例を示したのが、地下ダムといえるでしよう。
(黒田登美雄・古川博恭)

41 地下ダムの種類と建設立地条件

 地下ダムは、その目的、締め切り工法、貯留形態によって、図W-18に示したように、さまざまな種類に分けられます。また、地下ダムはどこにでも建設できるわけではありません。地下ダムを建設するためには、つぎのような立地条件を満足する必要があります。
@ 必要とされる量の地下水を貯留することのできる空隙を持っていて、貯留した地下水を効率良く採取するために十分な透水性を持った地層(貯留層)が存在すること。 A その貯留層の下位および周囲に、地下水を逃がさない水を透しにくい不透水層(不透水基盤)が存在すること。
B 貯水量に見合う地下水の補給(涵養)があることなどがあげられます。
 これら地下ダムが立地しやすい地域の例を、図W-17に示しました。
(黒田登美雄・古川博恭)

42 地下ダムの水収支

 地下ダムの水収支を考える場合、いくつ かの条件を仮定します。ここでは、サトウキビをかんがい対象作物とします。これまでの多くの調査結果からサトウキビの年間消費水量は約1,200mmで す。このうち降雨で賄える分、すなわち有効雨量は、かんがい条件下においでは約500mmに達します。残り700mmが不足水量(=かんがい水量)となり ます。700mmの不足水量を補うためには、かんがい中の損失(風で畑の外へとばされたり、空中や作物の葉から蒸発したりして、土壌水分とはならない)を 見込んで、少し多めのかんがいが必要になります。実際のかんがい水量と土壌水分増加に寄与したかん水量の割合をかんがい効率と呼び、一般的に90%程度見 込みます。すなわちかんがい水量の90%が土壌水分となり10%は損失になるということです。
 したがって、地下ダムからは、10%の損失を見込んだかんがい水量が揚水されます。サトウキビの不足水量は700mmでしたから、それの10%増の水量770mmが揚水されることになります。
(吉永安俊)

図W-19(宮古島における地下ダムの水収支)

43 PCPによる地下水汚染 ― 不法投棄の代償

 最近では有機塩素化合物の有害性や難分解性、蓄積性が広く知られるようになり、地下水の汚染物質としても国内外で様々な事例が報告され、その使用が規制されるようになってきました。沖縄ではかつて、その有機塩素化合物によって地下水が大規模に汚染された事例があります。
 沖縄が日本に復帰する前年の1971年5月21日、南部地区東部上水道組合が水源としていた3つの湧水が同時に汚染され、水道水から異臭がしました。こ の水道は沖縄本島南部の4村約2万人に給水されていたものです。水源の水を分析したところ6ppmという高濃度の除草剤PCP(ペンタクロロフェノール) が検出され、この水に金魚を入れると30〜45分ですべて死んでしまいました。
 この原因は、米軍払い下げ物資を扱う業者が、具志頭村内の採石場跡のバガス(サトウキビの絞りかす)捨て場にPCPを不法に投棄したためと分かりまし た。この業者はPCPを防腐・防虫剤として転売するために米軍から大量に買い取ったのですが、思ったようには売れず、屋外に放置しているうちに容器も腐食 し、処置に困ってドラム缶5千本分ものPCPを、バガスが捨てられた穴にこっそり投棄したのでした。掘削されほとんどむき出しになっていたサンゴ石灰岩の 地層に注がれた有害物質は、沖縄本島南部の豊富な地下水を蓄える地下水脈に入って広範囲に広がり、最も遠いものでは2kmも離れた水源まで汚染してしまっ たのです。この業者は、目に見えないところでまさかこんな深刻な事態が起ころうとは思いもよらなかったのでしよう。
 現地4村では翌朝から水道の供給が全面的にストップされました。民家の井戸も汚染されて使えません。汚染発覚直後には、生活になくてはならない水が全く 使えないという状態になりました。人々は、1戸当り20Lというわずかな水の配給を受けるため、給水車が来るのを道端にしゃがみ込んで長い間待ったそうで す。こうした中、汚染が分かっていながら、井戸や湧水の水を洗濯などにはやむなく使う人もいました。沖縄本島中北部から水をひく水道公社からの配管が急遽 つながれるまでのおよそ20日間、水道が全く使えない生活が続きました。
 さらに、PCPが染み込んだ300トンものバガスを除去するのもたいへんな作業で、米軍の火炎放射器を借りて現場で燃やしてしまえというとんでもない案 まで真面目に検討されました。当時の新聞を見ると、風邪をひいた時に使うような白いマスクにゴム手袋をつけただけのたくさんの作業員が、汚染されたバガス をビニール袋に詰めている写真が載っています。この作業の現場では、「シンナーのような刺激性の強いにおいがぷんぷん」し、「フラフラ目まいがするので1 時間ことに交替」して作業したと書かれ、今の感覚からすればとても危険な作業だったようです。報じられる範囲では住民や作業員の健康被害は起こらなかった のが幸いでした。
 この事件から30年近く経つ現在、私たちの周りの状況はどうでしよう。人々の生活にこれほど大きな影響を与えた事件の教訓は、生かされでいるのでしよう か?残念ながら廃棄物の不法投棄は後を絶たず、昨年1月にはやはり沖縄本島南部の糸満市域で採石場46か所(採石自体が不法なもの24か所を含む)のう ち、8か所で廃棄物の不法投棄が見つかり、そのうち1か所については約2,000トンもの産業廃棄物を深夜に不法投棄していた廃棄物業者が逮捕されまし た。お金になる石灰岩を地下からどんどん掘り取り、できた巨大な穴には今度はゴミを詰め込んで、後は埋めでしまえば誰にも見つからないというわけです。地 下水の大切さだとか環境保全なんて関係ない、空缶をポイ捨てするように、見つからなければ何をしても平気という人は一向に減らないようです。
(田代豊)

44 「花と鍾乳洞の島」沖永良部島の地下水汚染

 奄美群島の沖永良部(おきえらぶ)島 は、「花と鍾乳洞の島」と呼ばれています。ユリやフリージアなどの球根や切花の栽培がさかんで、時期になると島中見渡す限り花に被われます。花の栽培は収 益性が良く、おかげでこの島の農家は高い所得を上げています。年収1千万円を超える農家も珍しくなく、花はこの島の誇りです。ところがこの島は、その花が ゆえに生じる問題を抱えています。
 花の栽培には化学肥料や農薬がたくさん使われます。花は、野菜などのように人間が口にするものではないので、虫や病気を恐れる農家はいくらでも農薬をか けることができるのです。この島の花畑で使われる農薬の量は、サトウキビ畑での10倍近くに上り、散布作業をする農家自身の健康も心配されています。
 この島は、宮古島などと同様サンゴ石灰岩で被われた島です。地表に降った雨水は地下にどんどん浸透し、地下では石灰岩が侵食されてたくさんの壮大な鍾乳 洞ができています(この鍾乳洞を探検するためにこの島を訪れる人もたくさんいます)。サンゴ石灰岩地域に特徴的な鍾乳洞や「暗川(くらごー)」と呼ばれる地下水路は、島中いたる所の地下を巡り、地表の川の代わりになっています。そして、こうした地下水は島の人々の唯一の飲用水源でもあります。
 このように地表の水が地下に浸透しやすいということは、地表で使われる有害物質が地下水に浸入しやすい環境にあるということでもあります。これに加えて 最近は大規模な土地改良事業が持ち込まれ、その工事のために地下水を涵養していた地上の林地は広範囲に伐採され、地下の石灰岩層に発達していた地下水系は 至る所で破壊されています。こんな小さな島で大規模に環境を改変すれば、地下水系に影響が出るのは当然で、晴天になれば湧水が枯れ、大雨が降ればそこから 畑地の濁水(赤土)が海に噴出するというようなことが現実に起こっています。このような工事によって、地表の水が地下水路に直接流入するようなところが増 えれば、それだけ地表の有害物質が地下水に混入しやすくなります。さらに、整備された畑地の排水路には、こうした自然の地下水路にわざわざ流し込むように 造られているものもあります。
 沖永良部島では、宮古島などと同様、肥料による地下水の硝酸性窒素汚染が発生してきています。上水道水源でも硝酸性窒素濃度が少しずつ高くなり、畑地の多い北東部では多くの井戸や湧水で飲用水質基準の10mgL-1を 超えています。そればかりではなく、この島では農薬による地下水汚染も発生しています。1993〜94年に行った調査では、34か所の井戸や湧水のうち、 8か所から農薬が検出されました。幸い上水道水源は汚染されていないものの、地上で多用される農薬が島内のあちこちで地下水に混入しているのです。
 この島では農業に従事する人が多く、人口約1万5千人の島の経済は先進的な花の栽培と公共事業に大きく依存しています。そうした状況下で、危険な農薬多 用や過度の農業土木工事にブレーキをかけるのは簡単ではありません。宮古島では行政が先頭に立って地下水保全対策に動いていますが、沖永良部島でもこうし た調査結果などを受け、農薬と化学肥料については、行政が使用削減方針を表明しました。農家の中にも農薬をなるべく減らそうという意識は少しずつ浸透しつ つあるようです。
 また、公共工事による地下水系の破壊とは裏腹に、この島に農業用水を得るための地下ダムを建設する事業構想もあるようですが、小さな島での大きな工事に よるさらなる周辺環境へのダメージを考えると、本当に必要で適切な事業なの力慎重な検討が必要です。沖永良部島の開発可能な湧水地下水量は年間1,800 万トンと見積もられていますが、昭和60年〜平成9年に、林地の減少によって年間の地下水暴は約200万トン減ったとも試算されます。これは平成2年にお ける1年間の島内すべての水需要量に相当します。今後とくに農業用水の需要増が予想されるものの、例えば林地を今より400haほど増やし、水田を作った り下水処理水を再利用したりすれば合計400万トン近くの水を確保することも可能です。これに小規模なため池の整備を加えれば、大規模に島を壊すリスクな しに水需要を満たすことも可能でしよう。島の水環境を考えるならば、残された石灰岩地層の保全と林地の保全創出の方がまず先に進められるべきで、今後この 島がこうした「環境保全型農業」の発想に基づく水資源確保のモデルとなることが期待されます。
(田代豊)

図W-23 海岸の湧水から噴出し、海を染めた赤土(沖永良部島)
図W-24 土地改良工事で削られた鍾乳洞(沖永良部島)
図W-25沖永良部島の地下水から検出された農薬(1993年5月〜1994年3月)

45 ブルーべビー症

 高濃度の硝酸性窒素を含む水でといた粉ミ ルクを、乳幼児に飲ませた時に発生する症状は、赤ん坊の全身がチアノーゼで真っ青になることから、別名ブルーべビー症とも呼ばれます(正しくはメタへモグ ロビン血症といいます)。この奇病は、1945年にアイオワの若い小児科医によって初めて報告され、その原因は飲料水中に含まれる硝酸性窒素であるとされ ました。その後、米国の主に地方から同様の病状が報告され、ミネソタ州だけでも30か月間に144の発生(うち14人が死亡)が報告されました。
 WHO(世界保健機構)は、1945〜1986年に世界で約2,000人の乳幼児がこの症状に催り、うち160人が死亡したと報告しています。近年で は、米国のアイオワ州で基準値の約3.5倍の硝酸性窒素を含む地下水を飲用していた家族で、生後7か月の女児が1986年に犠牲となったほか、隣国の韓国 においても、粉ミルクを地下水でといて飲んだ生後10か月の乳児が、同国で初めてブルーべビー症に罹ったことが新聞に報じられています。なお日本において は、まだこの病気の発生は報じられていません。
(中西康博)

46 氷の中に硝酸性窒素はどれだけ入るの?

 夏になるとペット ボトルに入れた水道水を冷蔵庫に入れ、いくらかを凍らせ、氷の入った水を飲むことがあります。もし氷に硝酸性窒素が入っていきにくいなら、それは凍らない で残っている水に濃縮されることになります。そうすると、飲んでいる水の硝酸性窒素濃度は水道水中濃度よりも高くなっていることになります。
 図X-2にはもともと193mgL-1の 硝酸性窒素を含んでいた湧水を用いて実験した結果を示しました。この実験では同じ水を同じ量(1.3L)入れたペットボトルを何本も冷凍庫に入れ、ある時 間ごとにとり出して氷、水の量、それらに含まれている硝酸性窒素濃度を測定しました。横軸には氷の割合を、縦軸には硝酸性窒素濃度が示されています。この 図から氷の中の硝酸性窒素濃度は低く、水部分に濃縮されることがわかります。この実験の場合、最初の水の80%を凍らすと、水部分の濃度は最初の約3倍に なりました。氷の中の濃度は全体を通して最初の濃度の半分から3分の1になっています。硝酸性窒素は氷に入りにくいと言えます。
 それでは最初硝酸性窒素がある濃度にあった水を凍らせ、凍らないで残っている水中濃度が10mgL-1以下を保つのに凍らせ得る上限はいくらかを計算し、図X-3に示しました。この図は最初6mgL-1含んでいた水の場合、50%(約半分)凍らすと、残っている水の濃度は10mgL-1くらいであることを示しています。これ以上凍らすと水中濃度は10mgL-1を超してしまいます。
 硝酸性窒素濃度の高い水を凍らせて飲用にする場合、こんな研究結果も参考になると思われます。
(渡久山章)

47 水の中の硝酔注窒素濃度を簡単にはかる方法

 水道法の水道 水質基準には、水道水中の硝酸性および亜硝酸性窒素の濃度はイオンクロマトグラフ法か吸光光度法のどちらかで測定するように定められています。しかしなが らこれらの方法は高価な分析機器を必要としますし、分析機関に依頼するとしても、分析費用が多くかかります。
 一方、おおよその濃度を知るだけでよいのであれば、もっと安価な方法があります。それは試験紙による方法で、小さな短冊状の試験紙を水サンプルに浸し、試験紙の色の変化を目で判定することにより、サンプルに含まれる硝酸性窒素の濃度をはかります。図X-8はこの試験紙の一例で、このような試験紙は学校の科学教育資材を扱っている店で購入できます。この方法による測定値の精度は、高価な機器には及びませんが、1サンプルの測定に要する費用が100円前後ですむという利点があります。
(中西康博)

48 平良市内の地下水の海水による影響

 宮古島は石灰岩ででき た珊瑚礁の島で特に平良市は厚さ20〜30mの石灰岩が被さっているため、この厚い石灰岩層に含まれた水は、その下層の不透水層である島尻層の上を通って 海に流れています。この際、島尻層のヘッドの高い所では、城辺町の保良の泉のように大きな流れとなって海に流れ出しており、またへッドが海面下にある場合 はかつての漲水港のように冷たい真水が海から湧き出しています。
 平良市内では現在のような水道のなかった戦前には、飲料用やその他の雑用水を取るために10〜20m程の厚みの珊瑚礁を掘りぬき、石灰岩の下層の島尻層 との間に蓄えられた地下水を釣瓶で汲み上げて使用するか、または何十段もある石段を降りて、天然の鍾乳洞の中の水を桶で汲み担いで階段を上り使用していた ものです。この作業は子供や女子の仕事で大変な苦労でした。
 著者は昭和24年2月、平良市内の井戸64か所からこの井戸水を採水し、塩素イオンを測定し、市内の地下水が海水にどのように影響されているか調査を行いました。その結果を市内の地図に記入して等塩分線図として示したのが図X-9です。
 地下水の塩分は人間生活の活動なども影響することが考えられますが、図に見るように海岸近くの井戸には塩素イオンが797mg/100mLと非常に高濃 度で、明らかに海水による影響がみられます。そして海岸から遠ざかるにつれて次第に塩素イオンは減少し 、平良市東の郊外においては2.5mg/100mLと低い値を示しています。そして平良市東郊外にあるツーギャガー、さらに西側の盛加ガー、さらに西の白 河ガーと海岸に近づくにつれて2.5、2.6、3.2mg/100mLと徐々に増加し、またその付近の地形などから判断して、この三つの井戸を結ぶ方向に 地下に川があることが予想されます。さらに興味のあることには、図に見るように平良市の海岸線と並行して塩分の濃度が変化せずに蛇行しているところがあ り、この蛇行しているところをつなげばここに地下の川の存在が予測されます。この地下の川は市内で二つの流れがあるようで、それらはそれぞれ図に@とAで 示されます。
 @は市の南側のツーギャガー、船底ガー、イスヌスズガー、ウプンツガー、ヤカランミガーの順の流れで、他の一つのAは盛加ガー、ズアガー、平良市北小学 校井戸、糸数酒屋井戸の順の流れです。このうちAの盛加ガーやズアガーの経路は鍾乳洞の中でズアガーでチョロチョロと音を立てて流れている小川の流れを見 ることができて、明らかに盛加ガーの方向から流れが来ていることが認められます。このように石灰岩地帯の地下水は水の塩素イオンの濃度を測定するだけで、 地下に川として流れていることを認めることができ、興味深いものです。
 この測定の結果、市内の北側を流れる@の水脈の一つ平良中学東のツーギャガーを利用することについて、当時現地に駐留していた米軍が、部隊の水道用水と して部隊の近くで井戸を探索していた部隊の係に、この井戸の水質が最も良い水で量も豊富であるとその使用を助言した結果、この井戸を使用するため、直ちに 水道の施設を行いました。この点でもこの水質調査はいささか地域に役立つことができたものと考えている次第です。
(兼島清)

49 「おいしい水」ってどんな水?

 水のおいしさには、その成 分の他に水温や気象条件、水を飲む人の個人的な嗜好や習慣なども関係することから、どのような水をおいしいと判断するかは、いちがいに決めることは難しい でしよう。おいしい水は、もちろん、安全で衛生的でなければいけませんから、この意味からはまず水道水の水質基準(V-5参照)を満たしている必要があります。また昭和60年に厚生省の諮問で設けられた"おいしい水研究会"の答申によると、おいしい水とは、表X-3に 示した要件を満たす水ということになります。また水に含まれるミネラルのバランスを加えて考えると、おいしい水とは、カルキやカビ、硫化水素などの臭みが なく、味をまずくする有機物やマグネシウムの量が少なく、味をよくするカルシウム、カリ、ケイ酸、炭酸が適度に入っている水を冷やしたものということにな ります。
(中西康博)

50 窒素と環境問題

 窒素は私たちをはじめ全ての生物になくて はならない重要な元素です。ところが近年では、窒素質化学肥料の多用や物質循環系の破綻などを背景に、環境中に窒素が大量に流出した結果、いくつかの環境 問題の原因物質にもなっています。まずオゾン層破壊に関係する窒素化合物は、NO(一酸化窒素)とNO2(二酸化窒素)です。これらの窒素化合物は、オゾンと酸素原子から酸素分子をつくる反応を促進することから、オゾン層を破壊する化学物質として問題視されています。またNOは、N2O(亜酸化窒素あるいは一酸化二窒素)が成層圏で酸素原子と反応して発生することから、N2Oもオゾン層破壊に関係する窒素化合物として注目されています。またN2Oは炭酸ガスやメタンと同様な温室効果ガスで、地球の温暖化にも関わりをもつため、現在最も問題視されるガスのひとつと言えます。N2Oは自動車、焼却炉、工場などからの排気ガスに含まれますが、最も大きな発生源は、自然生態系の土壌であるとされています。また土壌に窒素肥料を施すとN2Oが発生することから、その発生を少なくする施肥技術や、植物による窒素の吸収利用率を高める方法が現在さかんに研究されています。
 次に酸性雨(酸性降下物)との関わりが深い窒素化合物はオゾン層破壊のところでふれたNOとNO2、ならびにアンモニア(NH3)ガスで、これらは大気中で最終的にHNO3(硝酸、イオンとしてはN03-)まで酸化され、雨や霧などを酸性にします。
(中西康博)

51 雨水中の硝酔性窒素濃度

 宮古島の水で問題になっているのは、硝酸性窒素濃度が高くなっていることです。それでは地下水の源である雨水中の硝酸性窒素濃度はどれくらいでしようか?そのことを図X-11に示しました。測定は沖縄本島北部名護市の源河川流域でなされ、期間は1987年2月8日から1988年1月5日までの11か月間、測定回数は10回でした。図から雨水中の硝酸性窒素濃度は高くても0.1mgL-1、10回の測定値を平均(ただし相乗平均)すると0.03mgL-1 であることがわかります。宮古島の地下水の硝酸性窒素濃度は1997年の月平均で白川田水源が5.4mgL-1、加治水道源が7.0mgL-1 、高野水源が4.5mgL-1となっています。雨水中の濃度と比べると150倍以上高くなっていることがわかります。
 表X-4に は雨水に含まれる他の窒素成分の濃度とそれらの合計を示しました。表に示したように窒素を含んだ成分としては硝酸性窒素の他に、アンモニア性窒素と亜硝酸 性窒素があります。雨水が地面にふれ、地下に浸透していく間にアンモニア性窒素や亜硝酸性窒素は、硝酸性窒素に変化する可能性があります。それで3態の合 計を求めることは大事になってきます。3態の合計濃度が最も高いのは1.2mgL-1、11か月間の平均値(相乗平均)は0.15mgL-1です。この平均値を前述した宮古島の3水源の硝酸性窒素濃度と比べると、水源の濃度は低い方でも雨水中3態合計の30倍以上に達していると言えます。このことは雨水が地面にふれたのち地下水になるまでの間に大きな変化を受けていることを教えています。
(渡久山章)

52 窒素の工業的固定と化学肥料

 1913年、ハーバーは200〜1,000気圧、500℃の条件で鉄触媒を用い、窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させアンモニアを合成する方法を考えだしました。
 現在、日本で製造している化学肥料に含まれる窒素は、このように空中窒素を固定して合成されたアンモニアが使われているか、このアンモニアをさらに化学変化させたものを用いています(一部、天然鉱物の硝石を原料としているものもあります)。
 窒素質化学肥料のうち日本でもっとも多く用いられているのは硫安(りゅうあん)で、これは上述したように空気からつくられたアンモニアに硫酸を反応させてつ<ります。この硫酸に含まれる硫黄分は原油や石炭に含まれていたもので、これらを精製する過程で除かれた硫黄はアンモニアと合成され、硫安がつくられます。
(中西康博)

53 土の性質と硝酸イオン

 農耕地の土壌は、これに含まれる粘 土鉱物や腐植(土壌有機物の一部)のはたらきにより、土壌溶液に含まれる陽イオンを吸着したり、交換する能力をもっています。これは一般に、粘土鉱物や腐 植がマイナスの電気を帯びていて、プラスの電気をもつ陽イオンはこれにくっつきやすいからです。
 一般に、作物の生育に必要な元素は、土壌から吸収するものとして、窒素、リン酸、カリ、硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリ ブデン、ホウ素、塩素がありますが、これらのうちいくつかの元素は陽イオンのかたちで土壌溶液中に存在し、土壌に吸着されます。例えば、カリはK+、カルシウムはCa2+、マグネシウムはMg2+といった陽イオンの状態で土壌溶液中から土壌に吸着されたり、あるいは逆に交換により土壌溶液中に溶け出たりしつつ、作物に利用されます。すなわち、図X-15にそのイメージを示したように、土壌中で陽イオンとして存在する栄養分は、土壌に保持されやすいのですが、反対に陰イオンは電気的に反発しあい、土壌中には保持されにくい状況になっています。
 土壌中に存在する、窒素を含む代表的なイオンはアンモ二ウムイオン(NH4+) と硝酸イオン(NO3-) のですが、畑地のように好気的条件下(酸素の多い状態)では、多くは硝酸イオンとして存在します。陰イオンである硝酸イオンは、上述したように土壌に保持 されにくく、土壌溶液中に存在するので、雨や過剰なかんがい水によって地下に流されやすいのです。そして、このとき多量の硝酸イオンが地下水に入り込む と、地下水の窒素汚染を引き起こすことになります。
(中西康博)

54 伊良部島の地下水の硝酸性窒素濃度

 宮古における硝酸性窒素濃度問題は宮古本島だけでなく、伊良部島や多良間島にもいえます。それらのうち、ここでは伊良部島について考えてみます。
 1998年現在、伊良部島の地下水における硝酸性窒素濃度は宮古本島より高くなっています。しかも宮古本島の濃度がここ10年間漸減しているのに、伊良部島では未だ増加傾向にあります。伊良部島の方がより深刻といわざるを得ません。
 そんな伊良部島で1983年と1988年に水源井戸と集落内井戸水を測定したデータを紹介します。
 図X-2021には1983年の採水地点と6か所の水源井戸、48か所の民家井戸の測定結果を示しました。図X-22には1988年、7か所の水源井戸と22か所の民家井戸の結果を示しました。図X-21から1983年当時は水源井戸の硝酸性窒素濃度は約5mgL-1でした。しかし、民家の井戸水には10mgL-1を超えたのもかなりの数にのぼっていました。1988年になると、おおかたの水源井戸の値が7〜9mgL-1にまで上昇しました。それに比べ、民家の井戸水は1983年よりも低くなっていました。これはどうしてなのか未解決です。伊良部島では集落内井戸水の調査もなお必要と思われます。
(渡久山章)

55 沖縄島の河川水と湧水の硝酸性窒素濃度

 沖縄島で人間活動の影響が比較的少ない地域は北部の方です。表X-12には沖縄島北部にある源河川の支流でアンモニア性窒素、亜哨酸性窒素、硝酸性窒素を測定した結果を示しました。測定は1987年4月から1988年1月まで、毎月1回の割でなされました。硝酸性窒素濃度は最も高いときでも0.33mgL-1、平均すると0.09mgL-1でした。またアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素を含め3態の窒素を合計して平均すると、0.12mgL-1でした。この値は雨水中の平均濃度0.15mgL-1よりもやや低いものでした。この理由としては植物による吸収などが考えられます。汚染の少ない自然状態に近い河川水に比べると宮古島の地下水中硝酸性窒素濃度は約40倍以上といえます。
 表X-13には宮古島における硝酸性窒素濃度を考えるため、沖縄島北部における湧水中の窒素成分の濃度も示しました。嘉陽湧水は3態の合計が最も高濃度でも0.1mgL-1以下でした。それに比べ源河湧水は0.7〜0.8mgL-1にも達しました。源河湧水は人間活動の影響をより受けている場所の水で、そのことが濃度に表れていると思われます。それでも宮古島地下水に含まれている硝酸性窒素濃度に比べると6分の1以下です。
(渡久山章)

56 城辺(ぐすくべ)町野城湧水中の硝酸性窒素濃度の推移

 宮古島の東海岸や南海岸では、地下水が湧き出でいる場所がいくつもあります。野城(のぐすく)湧水はこれらのうちのひとつで、宮古島の東海岸線のうち、城辺町に含まれる部分のほぼ中央にあります。1994年7月以来、この湧水から毎週月曜日に地下水を採水して、その成分を分析してきています。
 その結果のうち、硝酸性窒素濃度の推移を示したグラフが、図Y-8で す。このグラフに見るように、野城湧水に含まれる硝酸性窒素の濃度は、調査を始めてから徐々に減少傾向にあります。このことは非常に喜ばしいことです。し かしながらこのグラフで注目したいのは、季節的な濃度変化が示されていることで、その濃度は、毎年9〜10月頃を境として、減少から増加へと転ずるパター ンを繰り返しています。
 つまり硝酸性窒素の濃度は、グラフの中に赤い線で示したように、春から秋にかけては減少するのですが、秋から春にかけては増加するというパターンを繰り返しています。このことは第6章2-(1)で示した、サトウキビの施肥実態と密接に関係していると考えられます。すなわち、宮古島におけるサトウキビへの施肥は、10月〜12月の短期間に集中していることをその項で 示しましたが、この施肥時期の直前までは野城湧水の窒素濃度は下がってきているのに、施肥時期を迎えると、窒素濃度は再び上昇傾向に転じています。この野 城湧水に含まれる硝酸性窒素濃度の季節的な変化が示すように、サトウキビに施肥された肥料のうち、サトウキビに利用されない窒素分が地下に流され、これが 宮古島の地下水に含まれる硝酸性窒素の主な起源になっていると考えられます。
(中西康博)

57 リアルタイム施肥診断

 従来の土壌診断では、まず農地から 土壌を実験室に持ち帰り、作物栽培に関係する土壌の性質を、手間と時間のかかる方法で多数の項目について分析した後に行われ、その結果から、土壌中の栄養 の過不足を修正していました。ところが近年では、現場で即時に土壌や作物の栄養状態を診断することにより、施肥方法を修正する方法が開発されており、これ を「リアルタイム施肥診断」と呼びます。この手法は主に硝酸性窒素について行われており、土壌溶液や作物の葉汁などに含まれる硝酸性窒素の濃度を、コラム47で紹介したような試験紙で簡易に診断します。その結果、基準値より濃度が高ければ追肥をひかえ、基準値より低い場合には窒素を追肥するという方法です。
(中西康博)

58 家畜ふん尿中の窒素と「家畜単位」

 家畜ふん尿には、どれくらいの窒素が含まれているのでしょうか。その答となる例を、表Y-1に 示しました。この表は、各種の家畜ふん尿に含まれる窒素の年間標準量について、ヨーロッパ各国で計算した値をまとめたものです。これをみると、もっとも排 せつ窒素量の多いのは、やはりからだの大きな牛のなかまで、その量は種類や年齢によって異なりますが、多いもので140kgほどにもなると推定されていま す。この量は、わが国の1haの農地に、1年間に肥料として施用する窒素量とほぼ同じ量です(X-3-(3)参照)。一方、鶏の排せつする窒素量は年間0.6kg前後とされています。またわが国での推定量を表Y-2に示しました。ちなみに、日本人のし尿に含まれる窒素量は、年間で約3.3kgと考えられています。
 第X章で みたように、地下水を汚染する硝酸性窒素は、ほとんどの場合、農地に施される肥料と家畜ふん尿をその根源としていますが、それらのうちどちらが大きな汚染 源であるかは国や地域によって異なります。例えばオランダをはじめとした北欧の国々では、家畜ふん尿による汚染が肥料によるものよりひどく、これに含まれ るリン酸とともに窒素による汚染対策は重要な国家的課題となっています。そこでヨーロッパ共同体(EU) では、表Y-3に示したふん尿中の窒素量などをもとにして、家畜単位(LU)という基準を設けています。
 家畜単位は表Y-3に 示したように、窒素排せつ量の多い家畜ほど大きな値となっていて、酪農牛や水牛の家畜単位は1.000であるのに対し、羊や山羊は0.100となっていま す。この単位は、ある地域の一定面積に飼育することのできる家畜数を決める場合に、主に使われています。例えば、1ha当り1家畜単位の飼養が許される地 域では、酪農牛であれば1頭、山羊であれば10頭まで飼うことができます。このような飼養数は、家畜の排せつするふん尿に含まれる窒素やリン酸の量を考慮 して決定されており、畜産農家の経営上の損得よりも、環境保全を優先した配慮がなされています。
(中西康博)

59 かんがい方法のいろいろ

 宮古地域で採用されでいる主なかんがい方法には次のようなものがあります。

a.スプリンクラーかんがい
 宮古地域のかんがい事業では第1型と称され、最も広く採用されています。散水ノズルを回転させながら、半径30〜40mの円形範囲にかん水します。電磁 弁をそなえたかんがい施設では自動かん水も可能です。このかん水方法は作物への水分供給だけでなく、台風時に作物の茎葉に付着した塩分を洗い流すなどの多 目的な利用が可能です。

b. ホースかんがい
 第2型と呼ばれる、給水栓が圃場のわきまで設備された地域で主に使用されます。給水栓につないだホースの先端を持ちかん水する方法で、野菜栽培などでよく見かけます。またホースに開けた小さな穴から水を噴射させてかん水する方法もあります。

c.点滴かんがい
 ホースかんがいの一種で、ホースに一定間隔に開けられた小さな穴からポタポタ水を流してかん水する方法で、最も節水的な方法です。主にハウス栽培で使用されていますが、サトウキビ畑でもたまに見られます。

d .畝間(うねま)かんがい
 この方法は畝間に水を流してかんがいするため大量の用水を必要とします。したがって宮古のように透水性の良い土壌が広く分布する地域のかんがい事業には 採用されません。しかしこの方法は省力的であるため、給水栓に近い圃場ではたまに見かけます。また第3型と呼ばれ数十へクタールことに設けられた給水場所 から、用水をタンク車で圃場に運びかんがいする場合にもこの方法がみられます。

以上のかんがい方法のうち、a、b、cはいずれも根群域(作物の根が張っている土層)より深く浸透しないよう、すなわちかんがい損失が生じないよう、適量 がかん水されます。したがって水源の有効利用と地下水の水質保全を考えると、宮古島に最も合致したかんがい方法であるといえるでしょう。
 一方、畝間かんがいは省力的なかんがい方法ですが、土壌の浸透性の良い宮古島では、用水が根群域より深い部分まで浸透し、士壌養分や肥料成分の溶脱による地下水の汚染につながる可能性が高いです。したがって宮古地域では不適なかんがい方法といえます。
(吉永安俊)

60 森林が地下水に含まれる硝酸性窒素を吸収除去している可能性

  地下水に含まれた硝酸性窒素を、森林が吸収して地下水から除去している可能性があります。このことは宮古島の水道水源として利用されている3つの地下水流 域における調査研究から明らかになりました。この調査ではまず、これら各流域の人口 、農地面積、飼養家畜頭数、生活排水の処理状況などから、各流域の地下水に含まれる無機濃度を原単位法により推定しました。次にこれら3つの流域の地下水 を代表する地点で採取した地下水中の無機窒素濃度を実測し、この値を上記の推定値で除した比率、すなわち(実測/推定)窒素濃度比をもとめました。そし て、この比と各流域の森林率との関係をみました。その結果、3つの地下水流域の(実測/推定)窒素濃度比と森林率との間には、図Y-15に 示した強い負の関係が示されました。この関係は、推定した地下水窒素濃度が実測地よりも低い流域ほど森林率が高いということを示しており、この結果は、地 下水に含まれる硝酸性窒素を主体とする無機窒素を、森林が吸収除去している状況証拠であると考えられます。なおこの結果から推定された森林の窒素吸収除去 能は、年間1ha当り36〜84kgもの量となります。このように、地下水の水質浄化の観点からも、森林の役割は重要と考えられます。
(中西康博)

61 水田のもつ水の浄化機能

 水田のように土の表面が水でおおわれ、土壌中に酸素が入り込みにくい状況においては、土壌中の硝酸性窒素は図Y-16に示すように、最終的に窒素ガス(NO、N2OやN2)となり、この窒素ガスは大気中に放出されます。このような現象を脱窒と呼び、水田などの湿地において、微生物(おもに細菌)のはたらきにより起こります。
 このはたらきは、せっかくイネに施肥された窒素肥料の一部が失われるという点では問題がありますが、例えば硝酸性窒素で汚染された水をかんがい水として水田に流し入れ、その窒素を脱窒により放出・浄化することに利用できます。ただしコラム50でみたように、NOとN2Oはオゾン層を破壊するので、これらの発生はおさえる必要があります。なお水田において脱窒により失われる窒素量は1ha当り20〜30kgと見積もられています。
 このように水田は、イネを育てるだけでなく、地下水を涵養し、またその水質をきれいに保つために、古来、重要な役割を果たしてきたのです。
(中西康博)

62 ろ過材の大きさによるろ過能力の違い

 水に含まれる濁質を、砂槽などを用いてろ過して除去する方法がありますが、この場合、ろ過材の大きさと、そのろ過材が作り出す空隙にはどのような関係があるのでしようか。この関係について試算した結果を表Y-5に 示しました。その結果をみると、ろ過材の大きさ(径) が均一で、これがもっとも密に詰められたとき、そのろ過材の約15.5%にあたる大きさ(径)の空隙ができることがわかります。実際に水をろ過する場合に 用いられる砂の球体半径は通常約0.2mm ですから、この場合直径約60μmのすき間があくことになり、それ以下の大きさの物質、例えば1μmの大きさの消化器系伝染病原菌などは素通りすることに なります。しかし浄水場では、このような病原菌やコロイド粒子群を除去するのに有効な吸着法も併用され、安全な水処理が行われています。他方、地下水は土 壌中を浸透するときや地下水層を移動するときに自然のろ過作用を受けますが、それらのときの空隙は大小様々ですから、地下水を水源とする浄水場でも、適切 に管理されたろ過を行うように指示されて います。
(幸喜稔)

63 粒子の大きさによる自然沈降速度の違い

 水の中にある物質は、自然な状態においては、その粒子の大きさにより沈殿する速度が異なります。その速度はどれほどなのでしようか。ストークスの沈降速度式を用いて、その速度を大まかに試算すると、その結果は表Y-6のようになります。この結果からすると、例えば半径1mm 、密度が2.5g/cm3の物質(ちょうど砂の粒子に相当します)の沈降速度は毎秒3.3cmと計算されます。砂を水に入れると瞬く間に沈んでゆく状況を、この結果は示しています。一方、粒子半径が1μm(百万分の1m)、密度が1.1g/cm3と いったきわめて微細な物質の沈降速度は、1日当りでもわずか2mm程しか沈まないという結果になります。したがって、結果の表には載せてありませんが、粒 子半径が、0.45μm程の物質は自然状態では沈殿せず、水中で分散した状況となり、水質的には水に溶けた状態として扱うことになります。すなわちこのよ うな粒子を含む水は、コロイドの状況を意味します。
(幸喜稔)

64 「調査.分析・規制」の限界

 現在、日本の水道水は、第V章5-(3)で 示した水道水の水質に関する基準に関する調査,分析が常時行われ、その安全性を確認してから配水されています。しかしながら、このような分析は水質基準に 示された項目についてのみ行われており、かりにこれらの項目以外の物質が水道水源に含まれた場合、水道水の安全性を完全に確認したことにはなりません。例 えば化学工場の排水が水道水源に流れ込んでいる場合、その排水中には様々な物質が含まれ、それらの中には検査の基準が設けられていない物質も入っている可 能性があります。このような場合、水道水の安全性に関する分析や判断はまったく意味を失います。近代においでは、生活や産業形態の変化に応じ、新しい物質 が水道水源中に次々と混入してくる可能性がありますが、それらの安全性をいちいち確認することは実際には不可能といわざるを得ません。したがって水道水の 安全性を確保するには、工場や家庭などからの排水が水道水源に絶対に入り込まないようにすること以外に方法はないといってよいでしよう。
 宮古地域の場合、化学工場はないので、これから排水される物質の水道水源への影響は考えなくてすむのですが、水道水源となる地下水の涵養地域は、島民の 生活空間と重なっているため、家庭生活や農業、製造業などから排出される物質は常に入り込んでいるものと考えられます。この状況を改善するには、水道水源 となる地下水涵養地域から人間活動のすべてを取り除くことがもっとも適切と考えられます。しかしながら、そのような処置が現実問題としてとれるのかという と、それはきわめて厳しいといわざるを得ないでしよう。ですから、水道水源となる地下水涵養地域での人間活動は、地下水へ汚染物質が入り込まないように、 極力努力する必要があります。具体的には宮古島の場合、水道水源地下水涵養地域において、家庭や畜産業、製造業などからの排水処理や、地下水を汚さない農 業技術の開発・普及を徹底させることが重要と考えられます。
(中西康博)





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