Y みんなで水を守ろう!−宮古島での地下水保全対策指針
- 1 家庭生活で見直すべきこと
(1)宮古島における水道使用の現状
(2)生活排水はどのように処理すればよいの?の由来は?
- 2 農業で見直すべきこと
(1)宮古島におけるサトウキビへの施肥実態
(2)施肥方法の改善
(3)家畜ふん尿をじょうずに利用しよう!
(4)輪作と緑肥を利用しよう!
(5)かんがい方法に注意しよう!
- 3 自然のもつ水の浄化機能
(1)水と森
(2)水と湿地
- 4 人工的な水の浄化と新しい水利用
(1)いろいろな淡水化方法
(2)下水処理水の利用-環境修景用水としての再利用
(3)雨水の利用
- 5 きれいな水を充分に保つには−ひとりひとりの自覚から
前章でみた硝酸性窒素による地下水汚染状況を改善することをはじめ、地下水を保全するためには、どのような対策をとる必要があるのでしょうか。そ
の答は地域によってわずかずつ異なるでしょうが、宮古島を事例にその基本指針を考えてみましょう。また本章の第5節では、水の保全ひいては地域全体の環境
保全に関する本著者の共通的な提言を示してあります。
1 家庭生活で見直すべきこと
前章でみたように、宮古島の地下水に含まれる硝酸性窒素は、その多くが農業に由来する一方、生活排水に由来する比率は現状では低くなっています。しかし
ながら、下水道の整備が不十分な宮古島では、生活排水や事業所排水のほとんどは、浄化槽を経由したとしても最終的には地下水に流れ込んでいることから、こ
れらの排水に含まれる硝酸性窒素による汚染実態も重視する必要があります。また、農業に発する汚染物質は、肥料、農薬、家畜ふん尿と比較的特定しやすいの
に対し、家庭や事業所から排出される汚染物質は多種多様で、容易には特定できないといった問題があります。このことから、生活・事業所排水にはまた、農業
とは異なる視点での注意が必要です。特に飲料水源流域に属する地域では、より慎重な対策が求められます。他方、これらの排水に含まれる物質には、作物生産
等に利用できる栄養分も含まれており、その再利用についても検討することが望まれます。
(1) 宮古島における水道使用の現状
- 宮古島の歴史は、水との関わりが深いものがあリます。ひと昔前までは、天水に加え、近くのウリガーや井戸水が重要な水源であったため、図Y-1のように水くみが女性と子供の日課であったといわれています。
上水道が100%普及した現在では、当時とは大きく変わり各家庭に風呂や洗濯機、水洗トイレが普及し、水の使用量も数倍に増えてきました。宮古島における1人1日当りの水道使用量は、1998年には514Lに達しています。(下地邦輝)
(2)生活排水はどのように処理すればよいの?
- 川や海、地下水の水質汚染対策を考えるとき、最も大切なことは、自分の住まいが島のどの地点で、どの地下水流域(流域界)に属
するのか、そして生活排水がどこへ流れあるいは地下へ浸透していくのかを知ることです。そしてさらに、私たちひとりひとりが自分の生活排水がどのように浄
化処理されているのかを知ることです。
化学肥料が使用される以前、私たちの排せつする尿尿は肥溜にためられ、大切な水肥として畑にまき、作物が吸収することによって島における窒素の循環系が成り立っていました。化学肥料の使用や水の使用量が増したことにより、生活排水が水肥として畑に還元されなくなったため、島の窒素の循環バランスがくずれてしまいました。
宮古島において生活排水による地下水の硝酸性窒素汚染を防ぐには、排水中に含まれる窒素分を島の系外、つまり海へ排出するか、あるいは、浄化処理後の窒
素を含む排水を畑のかんがいに利用して作物に吸収させること、その二つの方策によって島の窒素循環を以前のバランスのとれた形に戻すことです。
宮古島における生活排水対策は、地下水の流域(流域界)によって多少異なリますが、両方策を組み合わせて行うことが最も有効と考えられます。今、平良の
市街地では下水道の一部供用が開始され、久松集落には集落下水道が敷設され、そして一部地域では小型合併浄化漕が普及しています(図Y-2参照)。宮古島における地下水の硝酸性窒素汚染の防止策は、生活排水の地下浸透を避けることであり、速やかに下水道に接続すること(図Y-3参照)と、それらの浄化排水を畑に還元することだといえます。
(下地邦輝)
2 農業で見直すべきこと
X章でみたように、地下水などの水域を汚染する窒素の起源は、日本全体で考えると、農地
に施される化学肥料と、海外から大量に輸入される食飼料であるといえます。このことは、地域的にみてもほぼ同様で、多くは化学肥料や畜産ふん尿の不適切な
あつかいによって発生している場合が多いようです。例えば宮古島の場合、地下水に含まれる窒素の約7割はこれら農業活動に由来すると推定しています。
したがって宮古島の場合、硝酸性窒素による地下水汚染を軽減するには、農業のありかたを見直すことが重要な課題です。ここではその具体策について考えるにあたり、まず、宮古島の主幹作物であるサトウキビ栽培における施肥実態をみることから探ってゆきたいと思います。
(1)宮古島におけるサトウキビへの施肥実態
- ここでは第1に、宮古島の農業全体を対象に、どれくらいの量の窒素が肥料として毎年農地に施されているのかについて、第2に夏植サトウキビの栽培に対象をしぼり、どれくらいの量がいつ施されているのかについてみてみましよう。
まず第1の課題については、宮古島での肥料の販売実績から推定した結果からすると、図Y-4に示したように、10a当りの農地に肥料(有機肥料を含む)として施された窒素量は1998年度では年間約11kgと推定され、この値はここ数年少しずつ減少してきています。またこの施肥窒素量は、図X-13に示した日本の平均量と比べても低い値となっています。
第2の課題については、宮古島の全市町村の45農家(平良市15、城辺町15、下地町9、上野村6)を対象に1998年10月に行った、夏植サトウキビ栽培の施肥に関するアンケート調査結果をみてみましょう。これによると、まず夏植サトウキビ1作当りの施肥量は図Y-5に
示したように、農家によって量的にはかなりばらつきがあり、最低・最高値はそれぞれ10.8、35.7kgですが平均は20.7kgでした。宮古島の島尻
マージ土壌で夏植サトウキビを栽培する場合の、窒素の指針量(沖縄県農林水産部)は24kgですから、これからすると、平均的には指針を下回る量で栽培さ
れていると考えられます。なお夏植サトウキビは2年にわたって栽培されるので、1年間の施肥窒素量は20.7kgの半量の10kg強と計算されます。ちな
みにこの量は、上述した日本の平均施肥窒素量よりも少ない量となっています。
一方、このアンケート調査結果で最も重要かつ衝撃的であったのは、夏植サトウキビへの施肥時期を月・旬単位で聞いた設問への回答です。その結果を図Y-6に
示しましたが、これによると、施肥は栽培初期に強く集中しており、特に栽培初年度の10〜12月における施肥頻度は全体の80.5%を占めています。すな
わち、夏植サトウキビの栽培期間は16〜18か月間程度の長期であるにも関わらず、施肥が行われるのは、栽培初期のわずか3か月間に集中している実態が明
らかになったわけです。また使用されている肥料の種類は、水に速く溶けやすい(速効性の)化学肥料であることがわかリました。
図Y-7に
は、サトウキビの窒素吸収パターンと施肥時期について図示しましたが、この調査で明らかになった施肥の実態は、サトウキビの窒素吸収過程からすると、不適
切と判断されます。農家が夏植サトウキビへ肥料を施している10〜12月は、サトウキビが窒素をほとんど吸収利用していない時期であるため、農地に施され
た窒素は、サトウキビにはあまり利用されず、その多くは地下に流亡し、地下水を汚染している可能性が極めて高いのです。この結果、コラム『城辺町野城湧水中の硝酸性窒素濃度の推移』に示したような、地下水中の硝酸性窒素濃度の季節変化が起きているものと考えられます。
またサトウキビへの施肥に関する実態は、沖縄県の指導とは異なるものです。県農林水産部の発行する 「
さとうきび栽培指針」によると、宮古島に広く分布する土壌である島尻マージで、夏植サトウキビを栽培する場合には、2回目の追肥、すなわち高培土の時期は
2〜3月に行うよう、またそのときにはゆっくりとした効果を示す緩効性肥料(ことば『肥効調節型肥料と緩効性肥料』参照)を用いるようにすすめています。
(中西康博)
(2)施肥方法の改善
- これまでみてきたように、宮古島の地下水に含まれる硝酸性窒素は、化学肥料に由来する量が最も大きくなっています。そしてその
背景には、宮古島の主作物であるサトウキビへの施肥実態に問題があると考えられます。したがって、宮古島の地下水に含まれる硝酸性窒素を減らす方策の第1
は、サトウキビへの施肥方法の改善にあると言えます。ではどのように改善することが望ましいのでしようか。
すでにみたように、サトウキビの施肥実態において問題となるのは、その量ではなく、時期にあると考えられます。夏植サトウキビに施されている窒素肥料の
全体量は、沖縄県の指導する量に比べても多くはないのですが、問題は、肥料がサトウキビの生育初期の短期間に集中して施されることにあります。このような
施肥方法では、サトウキビに利用される窒素の量は少なくなる一方、地下に流され、地下水を汚染する量が多くなってしまいます。
したがって、改善策の要点は、施された窒素肥料のうちサトウキビに利用される比率を上げる一方、地下に流される比率を下げることです。そのためには、サ
トウキビの夏植栽培の場合、施肥・高培土の時期を、現状の12月から年明けの2〜3月に移動させることが適切と考えられます。そしてこのとき、ゆっくりと
溶けだす性質をもつ緩効性肥料(ことば『肥効調節型肥料と緩効性肥料』参照)を用いることが望まれます。この改善は、すでに示したように、実は、沖縄県のサトウキビ栽培指針に示されている施肥方法を実行することなのです。
しかしながら、現実問題として、農家は施肥・高培土を12月に行わざるを得ない理由があるのかも知れません。考えられる第1の理由は、1月から3月はサトウキビの収穫時期とちょうど重なるので、農家は施肥・高培土の作業よりも、収穫作業を優先させるということです。特に働き手の少ない、労働力が不足して
いる農家は、収穫作業をまず行わざるを得ないという状況が考えられます。このような場合、農家は、施肥・高培土を収穫期の前か後の時期にずらして行うことになります。そして実際に農家は、収穫期の前を選んで、12月に施肥・高培土を行っていると考えられるのです。
このような農家の都合も合わせて考えると、サトウキビへの施肥方法の改善策としては、12月に施肥・高培土を行わざるを得ない場合は特に、肥料の種類を緩効性肥料に変えることが適切と考えられます。緩効性肥料を用いれば、肥料成分がゆっくりと土壌に溶けでてくるので、サトウキビは少しずつ長期間にわたり肥料成分を吸収することができるようになるでしょう。このことによりサトウキビの肥料利用率が上がれば収穫量は増えるはずですし、反対に、地下に流される肥料分が減るので、地下水を汚染する程度が軽減できると思われます。
以上は、宮古島の夏植サトウキビ栽培に関する改善策ですが、その他の作物栽培、例えば野菜栽培においても、できるだけ多くの肥料成分を、無駄なく野菜に吸収利用させるよう工夫することが、結果的に地下水保全にもつながります。
(中西康博)
(3)家畜ふん尿をじようずに利用しよう!
- 家畜ふん尿は、かつては堆きゅう肥として農地に還元され、地力の維持・増進に利用されていましたが、安価で栄養がコンパクトに
含まれている化学肥料が普及するとともに、その利用は急速に減少してきました。現在では、屋外に放置された、あるいは適切に処理されていない家畜ふん尿
は、雨により地下に流され、これに含まれる窒素が地下水を汚染するという因果関係をつくりだしています。
一方、持続的に作物を生産するためには、その基盤となる地力を維持・増進させることが大切ですが、地力の改良には堆きゅう肥の利用がほぼ共通的に推奨さ
れています。宮古地区では繁殖を目的とした肉牛の飼養が盛んですが、この畜産業から廃棄されるふん尿等を原料とした堆きゅう肥を積極的に農地に施すことに
より、地力を改良することができます。
第5章3-(5)の
表でみたように、宮古島に投入される窒素量は、1998年の推定で年間総量は1,926
トンで、このうち畜産廃棄物に由来する量は684トンです。この量は化学肥料に由来する量である855トンの80%に相当します。つまり単純計算では、畜
産から排出されるふん尿に含まれる窒素を、すべて農地に肥料として戻すことができれば、購入する窒素肥料を1/5に減量できることになります。実際には、
生ふん尿からは窒素がアンモ二アとして揮散しますし、ふん尿のすべてを堆きゅう肥にすることは不可能でしようが、できるだけ多くのふん尿を堆きゅう肥にす
ることで、宮古島の地下水をはじめとする環境に与える負荷を少なくすることができます。
このように畜産廃棄物を利用して堆きゅう肥をつくり、これを農地へ還元することは、地域環境保全の観点からみても、とても望ましい手段であるといえます。
一方、畜産廃棄物を堆きゅう肥などのようなかたちで再利用できない場合には、適切な方法で処理する必要があります。この場合、適切な処理というのは、処
理の過程や後に残される物質が、人体や環境に悪影響を及ぼさないように処理することを意味します。例えば、近年では家畜ふん尿に含まれる窒素分を、微生物
のはたらきにより窒素ガス(N2)にして大気に放出するという方法が研究されています。家畜ふん尿に含まれる窒素の由来は、図Y-10に示したように、まず飼料作物、次に畑土壌、そして化学肥料にさかのぼります。化学肥料に含まれる窒素は、第5章のコラム『窒素の工業的固定と化学肥料』に
示したように、もともと大気に含まれていたものです。したがってこのような処理方法によると、窒素を循環利用することになり、この意味では理に適っている
といえるでしょう。ただし、このガス化の過程で、窒素ガスではなく、アンモニアや亜酸化窒素ガスとして放出されれば、第5章のコラム『窒素と環境問題』でみたように酸性雨、地球温暖化等の原因となるため、これらの形態で窒素を放出することは望ましくありません。
(中西康博)
コラム『家畜ふん尿中の窒素と「家畜単位」』
(4)輪作と緑肥を利用しよう!
- 前項でみたように、家畜ふん尿は、そのまま放置すると地下水汚染などの悪影響を及ぼしますが、じょうずに利用すれば地力を高め作物の栄養となるばかりか、地下水汚染を軽減することになります。
しかし、宮古地域のように農業従事者が超高齢化しつつある地域では、農家独自で堆きゅう肥を製造し、これを農地へ施用するのは労働力の面からすると実際
にはかなり無理が多いでしょう。そこで、農地の地力を改善しつつ無駄な栄養分を地下に流さないようにするには、家畜ふん尿を農地に戻して利用するほか、作
付体系に輪作を導入し、その輪作の中に緑肥作物の栽培を組み込むという方法が適切と考えられます。
輪作とは、異なる種類の作物を同一耕地に一定の順序で繰り返して栽培することと定義されます(農学大事典、養賢堂)。輪作は本来、作物を持続的に生産す
るために、地力を維持・増進することをねらいとして行われてきています。作物はその種類により、好んで吸収する養分が少しずつ異なります。ですから、同一
の種類の作物を連続して栽培すると(これを連作といいます)、農地から特定の養分が早く失われ、地力が低下する結果、作物の生育が衰えたり、病害虫が発生
しやすくなります。そこで、作物の大きさや根の張りかた、好む養分、発生しやすい病害虫などが異なる作物を組み合わせた栽培を行うと、化学肥料や農薬を多
用しなくてよい、環境保全的な農業を行うことができます。
輪作の例として、サトウキビの場合は、バレイショなどの根菜類、葉タバコ、力ボチャなどの果菜類や緑肥との組み合わせが推奨されます。
緑肥は自給肥料の中で最も経済的ですし、また、緑肥作物を農地に栽培し、それをそのまま鋤き込めばよいので、堆きゅう肥を作って農地に施すという作業よりは、ずいぶん簡単にできます。
緑肥作物にはたくさんの種類がありますが、多くはマメ科とイネ科植物に含まれます。
このうちマメ科の緑肥作物の特徴は、図Y-11に
示したように、根に共生する根粒菌が空中の窒素を固定し、この窒素を緑肥の茎葉に供給し、すき込んだ後には農地の栄養となります。またマメ科の緑肥作物は
一般作物に比べ深根性で養分吸収力が強いため、地下深くの養分を吸い上げ土壌表層に集積させるいわば養分ポンプの役割を果たします。さらに、地下深くまで
伸びた根は、固い層を破砕し底土を改良してくれます。
一方イネ科の緑肥作物は一般に広く根が張るので、広い範囲から土壌中の養分を吸収・集積してくれます。また植物体が大きいので、単位面積当りの乾物重が多く、大量の有機物を土壌中に供給してくれます。
またヒマワリなど美しい花を咲かせる植物を緑肥作物として利用すれば、美しい景観をつくるのにも役立ちますし、マリーゴールドやべニバナなどを栽培することにより、農業害虫のセンチュウ防除にも役立ちます。
緑肥の利用は、南西諸島のような地域では、夏季の豊富な太陽エネルギーを有効に利用する手段のひとつとも考えられます。南西諸島での日照時間は、第1章
で示したように、冬春季に比べ夏季に格段に長いのですが、南西諸島では、この夏季の豊富な太陽エネルギーは、これまであまり農業には利用されてきていませ
ん。夏季には干ばつや台風害を受けやすいからですが、地下水かんがいの導入により、現在、干ばつの問題は解決されつつあります。そこで、かんがいを用いて
栽培すれば、緑肥作物は大量の有機物を生産し、夏季の豊富な太陽エネルギーを体内に吸収・蓄積することができます。この緑肥が農地に鋤き込まれれば、これ
らの有機物と夏季の太陽エネルギーは土壌中に移動・貯蓄され、冬春季の作物栽培に有効に利用されることになるでしよう。
さらに緑肥利用により地力が改善されると、土壌による水分や養分の保持能力が高まる結果、土壌中から地下へ流される養分の量は減少し、地下水汚染の程度を軽減するとともに、土壌中での保水量が増加し、地下水涵養のうえでも効果が期待されます。(中西康博)
ことば『地力』
(5)かんがい方法に注意しよう!
-
硝酸性窒素による宮古島の地下水汚染問題において、最も大きな汚染源は化学肥料で、地下水に含まれる窒素の約35%は化学肥料に由来することは既に第5章3-(5)の図X-19でみたとおりです。したがって、宮古島の地下水汚染を防止するには、作物による肥料の吸収率を高め、地下水へ浸透する肥料の量を減らすように、化学肥料の施肥方法を改善することが重要と考えられます。
宮古島のサトウキビ栽培は、ほとんど夏植型ですが、この栽培における施肥時期は、本章の2-(1)で
みたように、植付(8〜10月)から翌年の2月頃までで、とりわけ10〜12月に集中しています。この期間は、サトウキビの生育幼少期であるとともに、寒
冷期であるため、生長はきわめて緩慢で、サトウキビによる肥料の吸収量は低くなっています。また、この時期は降雨が多いため、土壌中の肥料要素(とくに硝
酸性窒素とカリ)は溶脱され(雨に溶かされ)、地下水に盛んに流れ込んでいるものと予想されます。
したがって、化学肥料による地下水の汚染を軽減するためには、従来の肥料の使い方を改める必要があります。その方法には、施肥時期を改めること、また肥料の種類を変えることが重要だということを本章2-(2)でみました。
一方、宮古地域に導入されつつある畑地かんがいも、地下水の硝酸性窒素汚染問題と強く関係すると考えられます。作物は、適度な土壌水分状態で肥料成分を
円滑に吸収します。土壌水分が欠乏すると、土壌中に肥料成分が多量にあってもなかなか吸収されません。かんがい設備の無い、天水依存の農業では、そのよう
な状況が頻繁に起こっていると考えられます。
かんがいの実施は、土壌水分状態を適度に保つため、作物の肥料成分の吸収率は自ずと向上します。したがって、天水依存農業で行っていた施肥量を削減することが可能となります。その結果、畑地の肥料成分が溶脱されておこる地下水汚染は確実に軽減されると考えられます(図Y-12参照)。ただし、過剰なかんがいはかえって地下水を汚す結果になります。特に畑に肥料を施した直後に、大量にかんがいすると、せっかくの肥料成分がかんがい水によって地下に流され、地下水を汚染することになります。かんがいもその適切な方法を守ることがとても大切です。
また、かんがいの実施に伴い、地下ダムと畑地との水の循環が地下水水質に及ぼす影響はまだ明らかになっていません。今後も、肥料要素の循環過程の解明と水質監視を継続することが重要です。(吉永安俊・中西康博)
コラム『かんがい方法のいろいろ』
3 自然のもつ水の浄化機能
自然界では、光合成により生産された有機物・エネルギー源に端を発する「食う・食われる」の関係(食物連鎖)がいたるところでみられます。物質は
様々な生物に利用されながら、移動・循環を繰り返していますが、その循環過程において、有機物は微生物により分解されて無機物にもどるという作用を受けて
います。水に含まれる有機物も微生物により分解され、藻類や水生植物等の栄養となるほか、窒素の一部などはガス化して空中に揮散します。このようなはたら
きは、例えば川底や海や湖沼の波うちぎわ、湿地などで活発に行われています。また森林は、大雨のときなどに水域に流出する土砂を少なくし、水域を汚さない
ようにする役割を果たしています。このように自然が本来もっている、水をきれいに保つしくみの一部をここではみてみましょう。
(1) 水と森
- うっそうと森林がおおう山地から、絶え間なく流れてくる冷たい清水を見るとき、これを森林のはたらきではないかと直感するのは、しごく当然のことと考えられます。
古代、ターレス、プラトン、アリストテレスといった哲学者は、水の起源について論争を盛んに行っています。キリスト時代に、ビトルビウスは地下水は、雨
や雪が浸透したものであると唱えています。これらは、観測に基づくものではなく、哲学的思考の所産であったといわれています。
13世紀フランスのルイ6世は、すでに森林と水に関する布告を出していますが、それは先覚者の思索に基づいて行われたものと考えられています。アメリカ
大陸を発見したコロンブスは、森林の増雨作用を唱えた最初の人といわれています。彼は、西インド諸島に雨の多いことは、これら諸島の大森林のせいだとして
います。アゾレス・カナリア諸島も昔は雨が多かったのですが、その森林が伐採されてからは往時のように雲が起きず、雨が降らなくなったことで理解されると
しました。
このような考えは、我が国でも行われています。1650年ごろ、岡山藩の熊沢蕃山は治水は治山にあり、また山林は国の本なりの思想を唱え、その著書「大
学或問 」
と「集義外書」の中で「山に木や草が繁茂していれば盛んに神気が起こり、渇水期にも雨が増加し、川の水を豊にして、ひでりの害を無くする」「木や草の繁っ
た山では、これらが水を含むから大雨による水も長い期間に繰り延べて流出されるようになり、洪水流出の発生は少なくなり、したがって土砂の流出も少なくな
る」と述べています。
日本の森林面積は2,500万haで、実に国土面積の7割を占めています。人口が多いために、国民1人当りの森林面積は世界平均の1/5ですが、森林の
果たしている役割は大きいといえます。では実際に、森林が果たすいろいろなはたらきについて、少しくわしく見てみましょう。
森林は、洪水を防ぐって本当ですか?
本当です。図Y-13は、降雨後の経過時間と流出量の関係を示したものです。降雨後、良好な森林でおおわれた流域(A)では、その流域の川の増水はゆるやかで、最大流量は裸地(森林におおわれていない地域)の流域(B)に比べると約半分(58%)となっていることがわかります。
農林水産省農業総合研究所が発行した資料「河川ハンドブック(1998)」の林野庁試算によると、森林や農地等の洪水調節容量は、地表にあるダム等の洪水調節容量に比べてはるかに大きいことがわかります。水循環の年間推計で、地表にあるダムの降水調節容量は53億m3であるのに対して、水田等の農地では約70億m3、森林土壌が一時的に貯留できる水の量は440億トンと試算されています。これを基にして浸透、流下、樹木の蒸散などの水の出入りを動的に捉えて計算すると、全国の森材の水源涵養能力は年間2300億m3にも達するといわれています。これが、森林は「緑のダム」と呼ばれる由縁です。森林は洪水調節以外にも、土砂や土壌流失防止にも貢献しています。
森林は土砂の流失をどのくらい防ぐのですか?
荒廃地では、1ha当り年間307トンの土砂が流出するといわれています。これに対して、良好な森林では、わずかに2トンの土砂しか流出しません。じつに荒廃地の約1/150です。図Y-14には、森林、耕地、荒廃地において1ha当り年間どれくらいの量の土砂が流出するかを示したものです。
(黒田登美雄・古川博恭)
コラム『森林が地下水に含まれる硝酸性窒素を吸収除去している可能性』
(2)水と湿地
- 水循環とは、太陽エネルギーによって蒸発した水が降水となって再び地表に戻ってきて地表を流れ、小川や河川を経て、最終的に海に流れ込
むというサイクルです。ところが人類は、森林を伐採して取り除き、田畑を耕し、湿地を干拓し、河川と氾濫原を分離させ、道路を建設し、住宅や建造物で大地
をおおうことによって水循環サイクルをかく乱しています。この水循環サイクルのかく乱により、水をろ過したり、調節したり、あるいは地下水を補充したり、
養分や堆積物を移動させる力がいちじるしく損なわれてしまっています。
今では多くの場所で、水があまりにも速く地表を流れることが、洪水や干ばつを発生させる原因のひとつと考えられています。たとえば米国ミシシッピ川流域
では、過去150年の間に、多くの森林が伐採され、草原、湿地や氾濫原までもが農地に転換されました。その結果、土壌浸食や洪水による被害が急増し、自生
の動植物種の絶滅に拍車がかかっています。
水が本来のゆっくりとしたペースで流れるためには、沼地や湿地帯は不可欠です。そして、自然の地下貯水タンクである帯水層を補充する上からも、沼地や湿
地帯は重要です。かつて、沼地や湿地帯は、農業にとっては役に立たない荒れ地とみなされ、干拓や埋め立てにより利用できるようになると考えられていまし
た。しかし、最近では、水の浄化や帯水層の補充、治水、魚貝類、野鳥をはじめ動植物などの保護の面からも、その果たす役割が認識されるようになりました。
沼地や湿地帯が、われわれの陸上での生産活動に起因した汚染から、沿岸生態系や海洋生態系を守るための防波堤の機能を果たしているといえるでしょう。湿地
が高く評価される事例は、それが都市の近くにある場合にみられます。そうした地域で湿地は、都市に必要な水を地下水として供給し、生活排水等による富栄養
分の軽減、洪水調節などの機能を果たしています。このような価値が認められながらも、沼地や湿地帯は、今なお広範囲にわたって、農地などの別な用途に転換
され続けています。米国とヨーロッパでは湿地全体の半分以上が、アジアでは27%が失われたといわれています。
その反面現在多くの国では、洪水調節ならびに工業地帯、農業地域からの流出水のろ過、排池物の分解や水の浄化に、費用効率のよい方法として、自然の湿地
や人工的な湿地の吸収力を利用するようになっています。例えば、農地の一部に木立を緩衝地帯として残し、もとの湿地を改修して人工的につくった湿地と併用
すれば、リンや窒素などに富む汚染物質の流出を80%以上削減できるといわれています。
湿地の復元によって生態系が修復されれば、かつてのように、自然の沼地や湿地帯が果たしていた洪水調節機能などもよみがえります。その方が、ダムや堤防
を建設するよりも低コストで、しかもより効率的であるとさえいわれています。湿地を1%増やすごとに、下流への水の氾濫が2〜4%減ることが明らかになっ
ています。そして、流域の5〜10%が湿地だと、まったく湿地をもたない流域と比べて、洪水のピーク期間を50%も減らすことができるとさえいわれていま
す。 (黒田登美雄・古川博恭)
コラム『水田のもつ水の浄化機能』
4 人工的な水の浄化と新しい水利用
人間の活動により汚した水は、きれいにして環境に戻す必要があります。特に河川・湖沼・地下水を汚すようなことをすると、私たちに利用可能な水がだんだん少なくなりますし、また環境にも悪影響を及ぼします。
前節でみたように自然は、汚染された水を浄化するといった優れた機能を本来もっていますが、その能力を超えた汚染は人工的に浄化する必要がありますし、
自然から借りた水は、できるだけ借りたときの状態にもどして返すのが適切といえるでしょう。人工的に水を浄化するにはどのような方法があるのでしょうか。
また人口が増え、生活が近代化するにしたがって水道水の使用量が多くなってきています。水道水を持続的に利用できるようにするには、処理水や雨水を利用するなどして、水道水を節水する努力を払う必要があるでしょう。
(1) いろいろな淡水化方式
- 川の水は、主に生物による自然浄化作用を受けてきれいに流れています。この浄化はさまざまな作用の組合せで行われており、私たちはこれ
らの浄化作用から学び、いろいろな水の浄化に応用しています。また生物作用によって浄化されない成分については、自然現象を応用して物理・化学的方法で浄
化することができます。ここでは、水を浄化するこれらの方法のうち、主なものについて考えてみましょう。
物理的な沈殿によるゴミの除去−凝集・沈殿による個体と液体の分離
汚れた水をきれいにする場合、まず大きなゴミを沈殿させて、きれいになったうわ水を利用する方法があります。しかし1ミクロンより小さなゴミになると永
久に沈殿せず、水は濁ったままのコロイドと呼ばれる状態になります。コロイドは通常、砂ろ過などでは除去できませんが、活動する生物を砂などに付着させる
と、その表面で電気的引力により吸着され、その結果、コロイドを除去することができます。その他、鉄やアルミニウムを使ってゴミ粒どうしを電気的に凝集さ
せることにより、ゴミを大きく成長・沈殿させ、濁り水をきれいにする方法もあります。
水中でのバクテリアによる有機物の分解―下水道の活性汚泥法
生活排水や下水はすぐに腐敗して汚いもののように思われがちですが、水中で酸素が十分にある場合には、それらは好気性バクテリアの栄養分となって速い速
度で分解されます。このときバクテリアの分解できない物やバクテリアの糞が残りますが、主に赤褐色を呈し臭いもなく、あまり汚い感じはしません。しかし酸
素が無いかあるいは少ないときには、嫌気性バクテリアによる無酸素呼吸が促進され、タンパク質はアンモニアや硫化水素に、炭水化物はメタンガスといった気
体になって空気中に抜け出し、複雑でくさい臭いが発生します。また水中では嫌気状態になるため、金属類は溶けやすくなり、しかも黒色あるいは黒褐色主体と
なります。またこの分解速度は遅いため、ヘドロも多くなります。このように水の見かけの状態は、栄養分としての有機物の量と水中に溶け込んだ酸素の量に
よって、嫌気性あるいは好気性バクテリアのいずれかの活動が優先され、その結果、水質状況が決定されます。なお水中への酸素の溶け方は、水と空気との接触
状況ならびに温度に左右されます。このような原理を応用して、強制的に曝気(水中に空気を送ること)して酸素を溶かし、好気的状況バクテリアを育てると有機物を分解・除去することができます。
有機物が多いとバクテリアの数は増えますが、有機物量が減るとバクテリアも減り、清浄な水になってゆきます。このように強制的な抜気処理により水質を浄
化する方法を活性汚泥法といいます。一方、空気を遮断して、長時間かけて有機物を分解除去する方法を嫌気処理法と呼んでいます。
河床表面でのバクテリアや生物群体による浄化―生物接触酸化処理法
活性汚泥法は、有機物が水中で踊るようにバクテリアと接触して分解・吸収されるのに対して、川底の石ころの表面に住むバクテリアに流水中の有機物が衝突
して分解・吸収される状況を生物接触酸化法といいます。また酸素が在る状態で砂などによりろ過する場合も接触酸化され、緩速ろ過法と呼ばれる浄化が行われ
ます。これら2つの方法のうち、高濃度の有機物を含む水処理には活性汚泥法が有効である一方、低濃度の処理には接触酸化法が有効です。例えば活性汚泥法で
はBOD値が200mgL-1程度の水を20mgL-1程度に下げるのに有効で、接触酸化法では同様に20mgL-1程度の水を2mgL-1程度に下げるのに有効です。
河床に堆積中の分解 ― 嫌気分解・還元処理法
河床のヘドロの中では酸素の供給が途絶えることから、バクテリアによる嫌気分解が進みます。好気的分解は処理速度が速いことから大量の有機物を分解する
のに適しますが、タンパク質を分解したのちに硝酸性窒素を生成します。これに対して嫌気的分解では、タンパク質を窒素ガスまで還元させ、窒素ガスは空中に
揮散するので窒素を水中に残留させないという利点があります。したがってこの嫌気分解・還元処理法は、地下水の硝酸性窒素汚染対策には低コストの生物的処
理法として大きな期待がかけられていますが、アンモニア、硫化水素、メタンガスを発生させるという欠点もあり、これらの発生を抑えた処理法を開発すべく現
在研究が行われています。
水生生物の養分吸収 ― 中・低濃度の窒素、リン除去
水生生物の中で生育の早い植物により、汚染水中の窒素・リンを栄養分(肥料)として直接吸収させて水の浄化を図る方法があります。ホテイアオイ、ボタン
浮き草など浮遊性植物がその例で、これらは水中養分を吸収させたあと収集して処分しやすいので中・低濃度の窒素除去に適する方法です。しかしながら民間利
用レべルでは、これらの植物の管理技術が確立されていないことから、例えば畜舎排水の処理法として適用するためには、今後の研究開発が必要とされる技術で
す。
浸透圧利用の浄化法
植物が根から水や栄養分を取り込む手段や、動物の腎臓などで行う水分と塩分の分離等は細胞膜の浸透圧現象によりますが、この原理を応用すると水と塩分を
分離することができます。この技術は海水淡水化、硬水軟水化、家庭用浄水器等で使われており、農薬・毒物等全ての成分を水から除去することのできる完全処
理法ですが、必要とするエネルギーが大きくコストが高いことから、特殊な条件においての利用技術となっています。
海水等の蒸発による雨 ― 海水淡水化の蒸発法
雨が自然現象による蒸発成分であるように、水分のある物からは、蒸発によって水を取り出すことができ、このような水の収集法を蒸発法といいます。かつ
て、海水の淡水化は蒸発法が一般的でしたが、最近では水処理に適した浸透膜の開発の発展に伴い、エネルギー使用量が少なく、低コストである逆浸透法の技術
が普及し一般的になっています。
土壌・地下浸透水中の浄化 ― イオン交換
イオン化した塩は、土壌を浸透する過程で土壌にイオン吸着されます。吸着の度合いは土壌によって異なりますが、中にはゼオライトなど吸着容量の非常に大
きい粘土鉱物があリます。この特徴を強化した化学物質がイオン交換樹脂であり、塩類の濃縮、硬水の軟化等に利用されています。酸やアルカリまたは、高濃度
の食塩水で再生され、樹脂自体は長期間使用できるため、家庭用の軟水器やボイラー用水の精製など工業的にも一般的にも利用されていますし、また特殊な汚染
物の除去資材として有効です。
電気的イオン分離 ― 電気透析
+、−の電極にまわりをそれぞれ陰、陽のイオン交換膜で仕切り、膜の内側の水に電気的圧力を加えるとそれぞれの膜からイオンが抜けて水が浄化されます。比較的濃度の低い塩分の除去には有効な方法です。
活性炭吸着
木炭にはいろいろな有機物を吸着除去する能力のあることが知られています。これは木炭が小さい穴を無数にもっており、この穴に微妙な粒子や溶解成分を取
り込み吸着して水を浄化するからです。活性炭は木炭の吸着機能を著しく増大させたものであり、その表面積は1g当り900uにもなります。吸着は炭の表面
で起きますから表面積の広さにより吸着能力の大きさを推測することができます。木炭は農薬や重金属、毒物等を強力に除去する偉大な水質浄化物質です。木炭
の利用は家庭用浄水器で普及しており、残留塩素や臭いの除去でその効果を経験することができます。この方法は浄水場では高度浄水処理施設の中で利用されて
います。
オゾン酸化
オゾンは強力な酸化分解作用をもち、直接的に有機物質を分解するため、汚濁水や色や臭い成分等は急激に消失します。バクテリアで分解できない難分解性有
機物に対しても効果的で、また分解残留物はバクテリアが食いやすい形となることから、オゾンを用いることで難分解性有機物が効果的に除去されるようになり
ました。
膜ろ過
近年、極微細な穴を均一に開けたろ過膜の生産が可能となったことから、種々の穴の大きさをもつ浸透膜やろ紙を用いたコンパクトな装置が作られるようにな
り、膜ろ過方式の浄化が普及し始めています。この膜ろ紙法は目的に応じた膜を選択することにより、希望する水質が得られることから、全機能型浄水法です。
海水淡水化や家庭用浄水器まで他目的の利用が可能で、今後さらなる発展が期待されます。 (幸喜稔)
コラム『ろ過材の大きさによるろ過能力の違い』
コラム『粒子の大きさによる自然沈殿速度の違い』
(2)下水処理水の利用−環境修景用水としての再利用
- 下水は人間の食生活環境の廃棄物であることから、その成分は私たちの食物とほぼ同様の成分で構成されることになります。これらは、人間
には栄養として活用されなくても、バクテリアにとってはエネルギー源であり分解活用される成分です。食物の腐敗過程で発生する臭いものや汚い成分は、バク
テリア活動の生成物であり、活動が完了すれば廃棄物(有機物)は浄化され消失します。この時点でバクテリアも減少し、さらなる滅菌処理工程で死滅します。
環境の要求に応じてバクテリアを制御すれば、処理水は新たな資源として活用することができます。またウイルスも対象とした滅菌が必要であれば、オゾン等に
よる処理で対応できます。有機物にはこのような下水処理により分解することができますが、有機物分解から生じた無機成分の一部や食塩などのミネラル成分は
残留するので、これを用途に応じて利用することが課題となります。近年ではこのような処理水を修景用水として河川に放流し、再生循環水として利用する事例
があります。川は水が流れて川となります。有機物を除去した下水処理水は、塩素やオゾンでバクテリアやウイルスを滅菌もしくは不活性化すると、人間の環境
に対し無害化することができます。水のある川を再生することができます。
(幸喜稔)
(3)雨水の利用
- 天水は水処理技術の視点から見ると、海水などを対象に、塩分と水を分離するといった最も難しい水処理を、最もエネルギーを要する蒸発法
で処理した水ということになります。質的には、大気中に浮遊する成分を溶かし込むため、風送塩を含んだり、酸性雨となったりします。しかしそれらの成分濃
度は河川水にくらべて低く、純水に近い水ですから有効な利用方法があります。
小規模貯水による水利用
100uの屋根から天水を集めると平均的な水使用量の概ね1人分は確保できます。1家族の生活用水としては充分な水量にはなりませんが、軟水として水道
を補助するかたちで使用すれば、限られた水質源を有効に活用し、無駄な水使用を省く生活習慣が育成され、節水型社会の構築に役立ちます。近年では、ホテル
やビル、公共施設等では下水の再生や雨水を利用することによる水資源の有効利用が定着しつつあり、節水型社会の形成を推進しています。(幸喜稔)
5 きれいな水を充分に保つには−ひとリひとりの自覚から
地下水をはじめとする貴重な水を質・量ともに保全するため、ひいては地域全体の環境を保全するには、どのような姿勢と行動が求められるのでしょうか。この問に対する本著者全員に共通する考えを、本書の「まとめ」あるいは「提言」に相当する部分として示しました。
すばらしい「水」のはたらき
地球の最初の生物は、今から約40億年前に誕生したと考えられています。そのときどのように生命が誕生したのかは、いまだ多くの謎を含んでいますが、少
なくとも35億年前、地球には海があり、その海には原始生物の藻類と細菌が生息していました。その後、生物は長い時間を海ですごし、動物が海から上陸し始
めたのは今から約3億6千万年前のことであったようです。
地球は、水の惑星といわれます。水の中で誕生した生命に始まり、私たち人類に至るまでの進化には悠久の時間を要しましたが、いまだに私たちの生命を維持
するのに最も必要な物質は水です。私たちは食料がなくても水があれば1か月ほど生きられますが、もし水も得ることができなければ、数日で死んでしまいま
す。
水はまた、私たちの住む大地を形成するのにも大きく関わっています。水は大地を風化・浸食し、それらによってできた粘土、砂、小石は水によって運ばれ、
豊穣な扇状地や沖積平野をかたちづくったリ、海底に堆積したりします。この堆積物はやがて、水を含んだ地下のマグマによって押し上げられ、ふたたび大地が
造られます。
水はものを溶かす能力に優れています。その証拠に海水中にはほとんどの元素が含まれています。土の中の養分は、水に溶かされてはじめて植物に吸収・利用され、これを育てます。養分は水とともに地球上のあまたの生物をめぐりつつ、それらをつくり育てています。
水は、山を削って森をはぐくみ、湖沼や河川を形成し、宮古島のような石灰岩地域ですと力ルストや鍾乳洞といった自然美をつくりだします。さらに雪や氷と化した水は、まったくおもむきを異にした景観美を生み出します。
水は水蒸気へと姿を変える瞬間に気化熱を奪うことによって大地を冷やす一方、水蒸気は地球を保温することにより、生物のすみやすい温度に地球を保ってくれています。
このように、その一部をみただけでも、水のはたらきのすばらしさに圧倒されます。
忘れがちな「水」のありがたさ
しかしながら私たちは、水の恩恵に対する感謝の気持ちを忘れがちです。食事のとき、私たちは「いただきます」「ごちそうさま」と感謝を言葉で表します。
ところが水に対してはどうでしよう。水は、私たちの生活にはもちろん、生存そのものになくてはならないことをよく知っていますが、あわただしく過ごす日々
の中で、その大切さを忘れてしまいがちです。しかしながら、これまでの生物史と同様、将来の地球においても、生物の存続を左右するもっとも重要なものは太
陽、大気(酸素)そして水でしよう。
これらのうち太陽は、地球上の全栄養の源となる光合成に必要なエネルギーと、生命維持に必要な熱を与えてくれています。この熱エネルギーはまた、地球上
で水を蒸発散させることにより、水を浄化し、循環させ、再び私たちにきれいな水を与えてくれるはたらきも担っています。このように太陽のはたらきは偉大で
すが、その寿命はまだ50億年ほどあると考えられていますし、またその存在が近未来に危うくなると知っても、その対策は現状では「人智を超え」ています。
また、大気中の酸素量を維持するにはその供給源である森林の保全が大切です。森林の乱開発を避け、森林を再生・修復することは重要課題のひとつです。し
かしながら現状では、酸素の減少に対する不安よりも、温室効果ガス、オゾン層破壊ガスや酸性降下物質を大気中へ排出する量を減らすことの方が当面の重要課
題となっています。
他方、水資源の不足と質の低下に関する問題は、確実に、そしてその速度を徐々に増して私たちにしのび寄りつつあります。現在、水は海洋・湖沼・河川・氷
雪のかたちで地球表面全体の4分の3を占めています。しかし私たちが生きてゆくために最も必要な水は、汚れていない淡水です。淡水の量は地球全体の水の約
2.5%でしかなく、またこのうち、私たちが比較的容易に使用できる淡水(地下水・湖沼水・河川水)は、さらに限定されます。
このように世界の淡水資源の量は限られているにもかかわらず、人口増加や生活レベルの向上に伴い、農業や工業そして私たちの家庭生活等に使われる水量は
増大する一方、水源水質は汚染物質により悪化してきています。「21世紀は水危機の世紀」であると称されるゆえんは、このような背景にあります。
「水危機の世紀」を迎えて
水のいとなみやそのもたらす恩恵は、私たちの生存に深く関わりがあるのに、あまりにも身近にあるためか、ついその大切さを忘れ、容易に汚してしまいま
す。汚された水をもとに戻すには、時として計り知れない労力と時間を要します。地下水汚染はその典型で、汚染された地下水を復元するのはきわめて困難で
す。私たちは人工的に様々なものを作り出してきましたが、人工的には容易に作り出すことのできない大切なものも存在することを忘れてはなりません。
透明な水の質は、一見どこでも同じように見えますが、実際には場所と時間により異なります。例えば地下水や湖沼水などの性質と量は、それぞれが関与する
地域の気候・植生・土壌・地形・地質など、自然環境の構成要素のひとつひとつが複雑にからみ合って決定されています。このように、本来その地域の特性をダ
イナミックに備えた水は、自然環境と切り離されては存在し得ず、人工的に作り出すことは不可能なのです。
このことを反対側から考えると、水はその地域の自然環境を映し出す鏡の役割を果たしていることになります。例えば宮古島の地下水が汚れているということ
は、宮古島をつくっている土や岩も汚れていることを意味します。そして現状では、南西諸島の自然環境に最も大きな影響を与えているのは土木工事と近代型農
業で、これらの手法を環境保全の観点から改善することが地下水保全のためにも重要となります。土木工事や農地開発等により人工的に自然のかたちを大きく変
えると、自然のもたらす価値を減少させる一方、自然への負荷を増大させてしまいます。
自然を人工的につくり変えることによって生み出される価値と、その行為によリ失われる価値を正しく評価することが、現在の私たちに求められています。そ
して、地下水をはじめとする水環境の保全は、その地域全体の環境を保全・修復することにより、はじめて達成されるということを理解しなければなりません。
このような意味で地下水の保全問題は、私たちが自然をいかに理解し、自然と共生できるかを試す試金石とも言えましょう。
水は「借り物」−「元本減らし」から「利子依存型」社会形態へ
また忘れてはならないのは、水は「私たちだけのものではない」ということです。例えば宮古地域において、私たちは生活用水をはじめすべての用水を地下水
に頼り、地下水に命を預けています。しかしこの地下水は未来の人たちのものでもあり、さらに私たちの仲間でもある多くの動物や植物も、私たち同様、あるい
はそれ以上に地下水に依存して生きています。
私たちは現在、自然がつちかった、あるいは私たちの先輩が長い年月をかけて育て「貯蓄」してくれた多くのものを借り受けて生活しています。例えば、食料
を生産する農地はその典型例です。先述した沖積平野のように、自然は豊かな農地を私たちに用意してくれていますし、また先人は、自然の助けをかりながら、
気の遠くなるような長い年月をかけて、安全な食料を安定して生産できるような農地を徐々につくりあげてきました。私たちは現在、そのような「貯蓄」に依存
しつつ食料を生産しています。
このような場合、比愉的にいえば、私たちはその「貯蓄」から生じる「利子」で生活する必要があります。つまり農地で作物を栽培する場合、その「元本」に
あたる農地の地力が減退するような行為は避けなければなりません。先人が行ってきたように、農地をより肥えたものにして、未来の人々にわたす努力をするこ
とが望まれます。
しかしながら現状では、いわゆる収奪的な農業をさかんに行い、「利子」のみならず、「元本」をも食いつぶすような勢いで作物を生産している場合がみられ
ます。このような行為は、そのときはよくても、すぐに生産量の限界と低下がやってきて、将来に大きな悔いを残すことになるでしよう。
水に関しても同様なことがいえるのではないでしようか。例えば沖縄ではいまだに色濃く残っているように、井戸水や湧水などは自然信仰の対象として崇拝されてきた歴史があり、先人がいかに水を大切に敬い、守ってきたかがうかがえます。
また地球生態系は本来、水を浄化する機能をそなえています。例えば、水に流し込まれた不純物は、沈殿や、大地を利用したろ過作用によって取り除かれ、水
辺や水底にすむ生物たちは、その連鎖的な分解作用により水を浄化しています。また太陽からの紫外線は水を殺菌し、さらに地球そのものは巨大な浄水器となっ
て、地表から水を蒸発させて雲をつくり、清浄な水を雨や雪として地上に戻してくれています。
このような自然の浄化作用でまかなわれる水の量が、いわば水の「利子」分ということになるのではないでしようか。このように先人が守り、自然が与えてく
れる水を私たちは借りて生活する一方で、その水を、よりきれいにとは言わないまでも元の状態にして返却する必要があります。私たちがかりにこの「利子」分
を超えて水を汚染する、あるいは自然のもつ水の浄化能力を減退させるといった行為をとり続ければ、その「元本」は急速に減少してしまうでしよう。
「水」をきれいに保つには
水は、場合によっては私たちの脅威ともなります。洪水や津波はその例ですし、そして多くの人命を奪う危険性をもつ病原菌や、硝酸性窒素などの汚染物質を水は媒介します。
宮古島の地下水に含まれる硝酸性窒素濃度は、1960年代には2mgL-1程度でした。ところが1990年頃には、平均して8mgL-1ほどにまで上昇していました。もう少し上昇を続けると、飲用できなくなるレべルにまで達していたのです。
その後、農業の状況変化や当協議会の活動をはじめとしたいくつかの努力により、その濃度は減少傾向にあります。しかしまだ多くの地点で6mgL-1を
超えていますし、全体傾向は下げ止まりの状態となりつつあります。1960年当時の状態に復元するため、あるいは通常の生活を営んでいても地下水に窒素負
荷を与えない社会をかたちづくるには、さらなる対策と努力が必要です。とりわけ伊良部島や多良間島の地下水に含まれる硝酸性窒素の濃度は、宮古島よリもさ
らに高いレべルにあるので、今後の努力が特に重要です。
宮古島やこれと同様な状況にある島々では、地下水に流入する窒素は、農薬と生活排水に由来するものが大半を占めると考えられます。農薬に由来する窒素はさらに、畑にまかれる肥料と家畜ふん尿に由来するものに分けられます。
これらのうちまず肥料に関しては、不適切な時期に、過剰な量を作物に施していることが問題を発生させています。作物が必要とする時期に必要な量だけ肥料
を与えれば、そのほとんどは作物に利用される一方、地下水に流入する量はごく僅かになるはずです。せっかくの肥料分を地下水に流してしまうということは、
農家側からいえば、高いお金を払って購入した肥料を無駄にすることになるわけで、農家経営としても適切な行為とはいえません。地下水水質の保全対策、そし
て農家経営の健全化のためにも、施肥された肥料の作物による利用率を重視した施肥方法に切り替えてゆくことが大切です。例えば具体的にサトウキビ栽培にお
いては、現在の速効性肥料から緩効性肥料の使用に変更することが早急に望まれます。
家畜ふん尿は本来、農地を肥沃にする有効な資源です。かつて家畜ふん尿は有機肥料として農地に戻すことで農地を肥沃にし、作物を育てるために使われてい
ました。家畜ふん尿の有効利用は、化学肥料の使用量を減らすとともに地力を向上させ、土壌の肥料分を保つ能力を高め、結果的に地下水の水質保全に貢献しま
す。このように家畜ふん尿の農地還元は多くの意味をもちますが、例えば宮古のように農家が超高齢化している地域では、以前のように農家が戸別に家畜ふん尿
を農地に戻すという作業は容易ではありません。家畜ふん尿を農地還元する手段を、これまでとは違い、地域全体の社会的なシステムとして構築すべき時期がき
ているように思われます。
いずれにしても農業に関して私たちは、採算性あるいは生産性のみを重視する姿勢から、どのようにすれば「生産」と「環境」を両立させつつ、将来にわたり継続的に豊かな生産を繰り返し行うことができるのかを重視する姿勢に変える必要があるでしょう。
生活排水に関しては、早急に下水道を整備して生活排水を処理場に集め、これを適切に処理することが望まれます。農業に由来する汚染物質の種類を特定する
ことは比較的容易ですが、生活排水や産業排水による汚染の場合、これらに含まれる物質は家庭や事業所等により異なり、その種類は多様です。かりに、生活排
水や産業排水に私たちの生活や生命に危険を及ぼす物質が含まれていて、これが水道水源に入り込めば重大な事態が起こります。したがって、各家庭や事業所等
は下水道整備に積極的に協力する必要があります。
また、処理場に集められた排水をどのような方法で処理し、処理された水をどこに廃棄するのかも問題です。例えば、排水中の窒素を処理する場合、オゾン層
破壊や地球温暖化に貢献するガスが発生するような方法は避けなければなりませんし、処理された水を海に投棄する場合、その影響が小さくなるような配慮が必
要です。処理水は農薬などに循環・再利用できる水質に調整して利用する手段も考えられます。
他方、近年宮古島を含め多くの地域において、生活や産業からの廃棄物の処理問題、いわゆるゴミ問題が大きな注目を集めています。宮古島では、農地基盤整
備用の土や建設用の岩が採取された跡地に、廃棄物が不法に投棄されている場所が散見されます。このような廃棄物からは、ごく微量でも私たちの生活や生命に
危険を及ぼす物質が含まれる危険性があリます。また、これらの廃棄物に由来する汚染物質の種類や流出時期を予測することは非常に困難です。
このような汚染を防止するためには、生ゴミや畜産廃棄物を肥料化して農地に還元するための技術と同時に、産業廃棄物も資源として再利用するための新しい
技術を開発・導入する必要があります。そして、これらの資源を活用した産業の振興を基盤とした循環型社会を構築することが強く望まれます。
「水」を充分に保つには
宮古島は小さな島ながらもその特異的な地形・地質ゆえに地下水が豊富に存在します。しかしこの地下水は決して無限ではありません。ところが、近年におけ
る水道事業の発展で水利用が便利になったこともあり、現在、水はまさに「湯水」のように使われています。沖縄県の1日1人当り水道使用量は全国でトップレ
べルにありますが、宮古島ではさらに多くの水が使われています。節水への取リ組みは、地域住民の課題として広く認識される必要があります。
節水の方法のひとつとして「雨水」の利用があります。かつて宮古地域では、各家庭に雨水タンクを取り付け、水洗トイレや庭まきの水などに利用していまし
たが、そのような方法を復活させることがまず考えられます。雨水は、衛生上の問題から飲用できませんが、これによつて1人1日当り50L程度は水道水を削
減できる計算になります。雨水タンクをトイレの水洗タンクより高いところに取り付ければ、ポンプアップする必要がなくなり、電気エネルギーの節約になりま
す。ただし、雨水タンクへの入り口部分にはゴミやホコリが流入しないよう、ろ過装置を取り付けるなどの工夫が必要です。そうしないとトイレが汚れ、これを
洗うためにまた水が必要になります。
その他、今すぐできる節水方法には、「歯磨き、食器洗い、シャワーなどのときに水道水を出しっばなしにしない」「洗濯水は適量を使用する」「トイレの水
洗タンクには水を入れたペットボトルなどを入れてその容積を減らすことにより1回に流す水量を節約する」などがあります。また食器洗いのときに「食器を水
につけ置きしてから洗う」と、水や洗剤の使用量が少なくてすみます。これは水のもつ「ものを溶かす」能力を活かした古くからの知恵の一例です。
他方、観光を主要な産業とする沖縄では、ホテルなどの宿泊業者とその宿泊客の節水に対する協力が重要になります。雨水や浄化槽で処理された水を利用する
ための設備の導入や、宿泊客が節水しやすいような器具を浴室、洗面所、トイレなどに用いるよう心がけることが望まれます。
さらに地域の水を確保するためには、地下水や河川などの水資源を涵養する森林を守る必要があります。沖縄では古来、各所の森林を神宿る不可触な御獄と
して崇め畏れることにより、これらを守ってきました。このような風習は当地におけるエコロジー思想の原点であるといっても過言ではないでしよう。また沖縄
が米国の統治下にあった頃、駐留米軍は水源涵養林や保安林などの周囲に柵を設けて立ち入りを規制するなどして、これらを徹底的に保護していました。ところ
が現在の私たちは、農地開発や町の区画整理、道路・港湾整備などのために、あまりにも安易に森林を破壊してきてはいないでしょうか。このような姿勢も、先
人の例にならって今後大いに見直す必要があると思います。
ひとリひとリの自覚から
以上ここでは、水のすばらしさと大切さを復習し、また宮古島を主な例として、地域の水をきれいにそして充分に保つために、どのような姿勢や対策が望まれ
るのかについて考えてきました。このような対策を実施するには、各地域の行政をはじめとした関連機関による、新しい技術や制度の開発・導入・普及が今まさ
に必要とされています。
しかしここで強調したいのは、水資源の保全や、地域環境の保全において最も重要となるのは、その地域に住む人々の、ひとりひとりの自覚と実行力であるこということです。地域住民の積極的な参加によってはじめて、新しい技術やシステムも活かされます。
そのためにはまず、水資源の保全について自らが学び、理解し、その成果を家庭内において子弟に伝えることが大切です。お父さんお母さんは、地域の水資源
保護についての先人の知恵をおじいさんおばあさんから譲り受け、これに近代的な知見を併せて、自らの子供達に伝える使命があります。このような学習は、環
境教育の一環として、小中学校はもちろん、成人学校などでも行われる必要があります。
一方、地域行政や関連機関は、環境保全に関する公正で正確な知識や新しい情報を、市民に充分に提供する義務があります。これらの機関はまた、先述したよ
うに、資源循環型ならびに節水型社会システムを開発・構築する、水資源涵養林等を保護・造成するといった対策を進める一方で、これらがそのように機能して
いるかを検証し、必要に応じ修正することも望まれます。そして、このような対策の実施や検証にあたっては、地域の当事者以外に第三者を含めた、個々の利害
にとらわれない公正な議論が行われなければなりません。
環境保全対策は、場合によって多くの経費を必要とします。しかしその経費は、まさに私たち自身と子孫のために必要なわけですから、例えば水道料金に上乗
せしたかたちで、いわゆる環境税として「水資源保護税」を住民ひとりひとりが支払うことにより水資源保護に参加するという制度の導入も考慮する時期にきて
いるのではないでしょうか。
このような水資源の保護に関する活動を通じ、水資源のみならず、さらには地域全体の自然・環境保全をめざした意識の改革と行動へと発展させることも大いに期待できるでしょう。
近代化した現代社会において私たちは、「私たちをとりまく水」を随分とないがしろにした行為をとってきています。水はいまのところ、私たちのそのような
愚かな行いに対して、平然とふるまっているように見える一方、様々な災害を引き起こすことで、私たちに大いなる反省を求めているように思えてなりません。
いま、私たちひとりひとりが自覚し、行動し始めることにより、すべての生物の先祖から受け継がれ、そして、すべての生物の子孫に伝えるべき清らかな水を保護することができると同時に、水からの恩恵を受ける資格を得られるのです。
- (大城逸朗・大城喜信・兼島清・黒田登美雄・幸喜稔・下地邦輝・高平兼司・田代豊・渡久山章・中西康博・古川博恭・吉永安俊;以上、五十音順)
.
コラム『「調査・分析・規制」の限界』
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