W 地下水が危ない!
- 1 「地下水」って何?
(1)地下水の種類
(2)宮古島に地下水が溜まるしくみ
(3)伊良部島や多良間村で地下水が溜まるしくみ
2 地下水はどれくらいの速さで流れているの?
(1)浅い地下水の流れる速さ
(2)深い地下水の流れる速さ
(3)宮古島の地下水の平均流速
3 地下水はどれくらいあるの?
(1)世界の地下水量
(2)日本の地下水量
(3)宮古島の地下水量
4 地下水の利用
(1)世界の地下水利用
(2)日本の各地域における地下水利用
(3)宮古地域の地下水利用
(4)宮古地域におけるかんがい利用
(5)世界でもめずらしい地下につくられたダム-地下ダム
(6)宮古地域におけるかんがいのめやす
5 地下水に関する問題
(1)重金属による地下水汚染
(2)揮発性有機塩素化合物による地下水汚染
(3)農薬による地下水汚染
(4)地下水の取りすぎによる地盤沈下
(5)地下水の塩水化
本章では、水資源のうちとくに地下水に焦点を当て、その種類としくみ、流れる速さ、量と分布、利用状況、
そして地下水に関わる問題などについてみてみましよう。
1 「地下水」って何?
地下水にはどのような種類があり、どのように溜まるのでしようか。一般的な考え方を示すとともに、宮古地域における地下水のしくみについてみてみましよ
う。
(1)地下水の種類
- 自由地下水面より下にあり、地層の間隙を満たして重力の作用により流動する水のことを地下水といいます。
実用的には井戸によって揚水可能な水です。地下水は、降水や地表水から涵養(かんよう)され、河川、湖沼、海などへ流出します。
したがって、地下水は動的な水であり、地下水帯の水と、それに接している水を厳密に区別することは困難です。実際、地下水と、
その上にある毛管水帯の水とを厳密に区別することは困難であり、また、区別することに本質的な意味はありません。そして、
地下水には大き<分けて、次に示す不圧地下水と被圧地下水の2つがあります
(図W-1参照)。
● 不圧地下水
自由地下水面または単に地下水面を持つ地下水のことを不圧地下水といいます。これを不圧水または自由地下水とも呼び、
被圧地下水に対比されます。一般的にいって、不圧地下水は、被圧地下水に比べて浅い場所にあるので、浅層地下水と呼ばれることがあります。
また不圧地下水のうち、下部の地下水とは不飽和帯で隔離されている水のことを宙水といいます。その地下水面は、
宙水面とよばれ、主要水体である"本水"とは水温、水質が異なります。宙水は、あまり水を透さない粘土層などの宙水
床で支えられています。補給が充分であって、飽和帯を常時維持できれば永久宙水ができますが、それがあまり充分でなく、宙水
床末端からの排水を補いきれないときは、一時宙水となります。一般に、日本の宙水は、規模が小さいといえます。
● 被圧地下水
被圧地下水は、不圧地下水に比べてより深い場所に存在するため、深層地下水と呼ばれることがあリます。これは、
加圧層によって被圧されている地下水のため、大気圧より非常に大きい圧力をもっています。単に被圧水とも呼び不圧地下水と
対比され、これを胚胎する帯水層を被圧帯水層といいます。この帯水層に井戸を掘った場合、自噴する被圧地下水を自噴性被圧水
と呼びます。そして、自噴しないものを非自噴性被圧水として区別することがありますが、しかし、自噴は帯水層の加圧だけで起
こるものではありません。たとえば、流出域では、加圧層がなくても流動系の垂直成分によって自噴することがあるので、従来の
自噴=被圧という考えは成り立たちません。自噴は最初、フランス北東部のアルトアで見つかり、これが英語のアルテシアン
(artesian)になったといわれています。その後、大規模な被圧地下水盆がオーストラリアで見つかって Great artesian
basin とよばれたことは有名です。
(黒田登美雄・古川博恭)
(2)宮古島に地下水が溜まるしくみ
- 宮古島は、島全体が隆起サンゴ礁起源の琉球石灰岩に覆われ、平均標高60mの三角形をした平坦な島です。島の表面は島尻マージと呼ばれる暗
赤褐色をした土壌が広く分布し、面積の約60%が耕地として利用されています。表土の島尻マージと穴ぼことすき間だらけの琉球石灰岩は、水をよく透しま
す。そのため、宮古島に降った雨のほとんどは、土壌からその下に分布する琉球石灰岩に吸い込まれてしまい、表層を流れるようなことはほとんど見られませ
ん。これが、宮古島に河川と呼ばれるようなものが発達しないひとつの理由です。
宮古島には全国平均を上回る年間約2,200mmの降水があります。その内の約半分(50%)は蒸発散により大気中に帰り、10%が地表流出し、残りの
40%が地下にしみ込んで地下水となります(図W- 2参照)。土壌
にしみ込んだ雨水は、地下水となってその下に分布する石灰岩中を浸透していきます。そして、琉球石灰岩の下にある水を透しにくい島尻泥岩層に行く手を阻ま
れて、流れを横向きに変えて地下水流となって海に注ぎます(図W-3上
参照)。
宮古島の地下には、断層によってつくられた地下谷が知られています(図W-3下
参照)。地下水はこの谷に沿って流下し、その一部は海岸部で湧水となって流出し、日量約42,000m3に
も達しています。年間の降水量を2,200mmとし、宮古島の面積160km2と
して、その雨量を計算すると3億5干万m3になります。そして、降水量の40%が
地下水になると仮定すると、宮古島全体の地下水の量は、年問約1億4千万m3(3
億5千万m3×0.4)になります。
宮古島の地下水を水資源として見た場合、この地下水は湧水となって流出している日量約42,000m3の
他に、さらに毎日30万m3以上の地下水が海面下に湧出していることになります。
このことからせっかくの恵みの雨もいたずらに海に流失してしまって、貴重な水資源が十分に活されているとは言えません。宮古島の地下ダム構想は、この地下
の谷を水を透しにくい壁で締め切り、地下の琉球石灰岩のすき間に地下水を溜めておき、干ばつの時に農業用水として利用しようというものです。
(黒田登美雄・古川博恭)
(3)伊良部島や多良間島で地下水が溜まるしくみ
- 多良間島は、島の大部分が標高10mくらいの真っ平らな琉球石灰岩からなる隆起サンゴ礁起源の小さな島です。古来、この島の飲み水は、集落
一帯にある数か所の石灰岩洞穴の地下水を利用したり、井戸を掘ってまかなっていました。
図W-4は多良間島の水理地質断面模式図です。この図を見ると、島
をつくる地層と、島の地下にある地下水(淡水レンズ)との関係が一目りよう然に示されています。この島は、厚さ約50mの琉球石灰岩でできていて、そのう
ち、上部の10mくらいが海面に姿をあらわして島を形作っています。この島の地下水は、琉球石灰岩中に「淡水レンズ」と呼ばれる形で含まれます。それは、
ちようど海水の上に淡水が浮いたような状態です。
こういった現象は、海岸や島における地下水(淡水)と塩水(海水)が接する境界部において観察され、ガイべン・へルッベルグの法則(Ghyben-
Herzberg's
law)で説明されます。そして、海岸や島では、海水がくさび陸地の地下水の下部に楔形
に侵入するので「塩水くさび」とよばれたり、小さな島の場合には「淡水レンズ」とも呼ばれます。塩淡水境界面の位置や形状に関しては多くの研究事例があり
ますが、基本的には図W-5に示すように次式で示されます。
hs = [ ρf/( ρs - ρf )]・ hf
= αhf
α = ρf / ( ρs - ρf ) = 40
すなわち、ρs = 1.025、ρf = 1.000 とすれば、 hs =
40hf となります。
この公式によると、海水面下の淡水レンズの厚さ(hs)は、海水面の上位にある地下水位 (hf)の40倍
程度になるということです。このことは、淡水の水位が過剰揚水により低下したり、
地表からの降雨浸透が少なくなると、その40倍もの大きさで淡塩境界面が上昇することに理論上なります。
(黒田登美雄・古川博恭)
2 地下水はどれくらいの速さで流れているの?
『ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞ
まりたるためしなし』と方丈記にも書かれているように、地下水もまた河の水と同様に絶えず流れています。しかし、その速さは非常に遅く、日本では平均1日
に1mくらいであるといわれています。この速さは、cm/秒という単位で表すと、10-4
〜 10-6
のオーダーとなります。そのため、この動きを感覚的にとらえることは極めて困難と思われます。このような流れは、これを理論的に推定(計算)するか、また
は、少量の色素、微量の放射性アイソトープなどをトレーサーとして検出する方法などのほか、把握することは、なかなかむずかしいと思います。
地下水流速の測定に、日本では不用意にきわめて多量のトレーサーを小口径の井戸にポンブで圧入した事例のたぐいが多いといわれ、これでは実際の流速より
10 〜 1000倍の流速が得られることになるとの指摘があリます。
最近、アフリカなどで深い被圧地下水の年齢を測定した事例が多く報告されています。それによると、地下水の露頭地域から採水井までの距離を得られた年齢
で割ると1年に1mないし20m、平均して1日当り0.01m
くらいの速度が得られています。
地下水の流れに関する理論は、最初飽和流速に関して得られ、その後不飽和流速の場合について拡張されました。飽和流速に関する理論は、有名なダルシーの
法則に始まり、デュプイ、フォルヒハイマー、スレク夕ーなどによって定常流に関する理論が完成されました。ダルシーの式を連続の式と組み合わせると熱伝導
型のラプラス式が得られます。後年、熱伝導式を使って夕イスが地下水に関する非平衡式を提唱し、今日に至っています。不飽和流速に関する理論はバッキンガ
ムとリチャードによって完成されました。
(黒田登美雄・古川博恭)
(1)浅い地下水の流れる速さ
- 浅い地下水の流れる速さを計算で求める例として、ダルシーの公式を用いて、地表からの深さ3mの関東ローム層における地下水の流速を計算し
てみることにします。計算に用いる水理常数は次のとおりとします。
ローム層の透水係数(水理伝導率) K = 6.91m/日(8×10-3cm/sec)
勾配(動水勾配) I = 1m/100m = 1×10-2
間隙率(有効空隙率) n = 0.2
これらの値から、実流速va は次のように計算されます。
va = 6.91×1×10-2/0.2 =
0.35m/日
このように、この計算例からすると、浅い地下水の流れる速さは1日に0.35mという結果が得られました。
なおダルシーの公式から算出される流速は、見かけの流速 v で表されるため、真の流速 va は v を間隙率 n
で割る必要があります。水は全断面を通じて平均的に流れるのではなくて、岩石や堆積物のすき間(有効空隙)だけを流れるからです。
(黒田登美雄・古川博恭)
(2)深い地下水の流れる速さ
- 深い地下水の流れる速さを考えるにあたり、深い深度にある被圧帯水層の加圧層(粘土)における地下水を例として、次の水理常数を与えて計算
してみます。
透水係数(水理伝導率) K = 0.86m/日(1×10-5cm/sec)
勾配(動水勾配) I = 1m/100m = 1×10-2
間隙率(有効空隙率) n = 0.1
これらの値から、実流速 va は次のように計算されます。
va = 0.86×1×10-2/0.1 =
0.086m/日
このように、この計算例からすると、浅い地下水の流れる速さは1日に0.086mという結果が得られました。
(黒田登美雄・古川博恭)
(3)宮古島の地下水の平均流速
- 宮古島における琉球石灰岩の透水係数は、試掘井による揚水試験とボーリング孔を利用したルジオンテスト法から求められたものがあります。
透水係数(水理伝導率) K = 305.8m/日(3.54×10-1cm/sec)
勾配(動水勾配) I = 1m/200m = 5×10-3
間隙率(有効空隙率 n = 0.1
これらの値から、実流速 va は次のように計算されます。
va = 305.8×5×10-3/0.1
= 1.53m/日
このように、この計算からすると、宮古島の地下水の流れる速さは1日に1.53mとなります。これらの計算で与えられた水理常数等の数値は、常識的に存
在しうる値ですから、得られた計算値も常識と非常にかけ離れたものではありません。つまり、地下水の実流速は、日本では1日当り0.1〜10mくらいとい
う値が普通に存在しうるきわめて平均的な値であるということを強調しておく必要があると思います。
(黒田登美雄・古川博恭)
3 地下水はどれくらいあるの?
地下水は目に見えないだけに、その量を把握するのは困難ですが、世界や日本そして宮古島にはどれくらいの地下水があると考えられるのかをみてみましよ
う。
(1)世界の地下水量
- 世界における水資源の分布をみると、地下水は淡水資源としては意外に多く、その量は、海洋の1,322,330,600km3(97.216%)、雪氷および氷河の29,199,700km3(2.147%)についで8,342,800km3(0.614%)
で3番目となっています。これは河川水の1,300km3(0.0001%)や淡
水湖の125,100km3(0.009%)、塩水湖104,300km3(0.008%)などに比べても、地下水がいかに多いかがわかると思います。ただし、水資
源としてコスト的にも利用が可能なものは深度800m(1/2マイル)以浅に分布する地下水です。その量は全体の1/2に相当する4,171,400km3です。そして、残りの半分は深度800m以深に分布しています。
海の水から氷河の氷、河川水、地下水など地球上における水の総量は約13.6億m3と
いわれています。その内の約0.6%に相当する834万m3が地下水の量です。一
方、世界中で陸地に降る年間平均降水量は745mmといわれています。このうち475mmが蒸発し、残りの270mmが流出します。この流出分のうち、
195mmは地表水として流出し、75mmが地下水となって流出しています。一般に、地下水となって流出する量は、降水量の約10%くらいであるといわれ
ています。地球上の全陸地の面積を148.9×106kuとすると、年間地下水涵
養量は、次のようになります。
地下水涵養量 = 148.9×106ku×74mm =
11,000km3
地下水の平均年齢は、地球上の地下水量8,342,800km3を年間地下水酒
養量11,000km3で割ると求めることができます。
地下水の平均年齢= 8,342,800km3÷11,000km3/年=758年
このように、河川やため池の水が、ひと雨、季節あるいは1年という短い単位で循環しているのに対して、地下水は地球規模でみるとおよそ800年に1回し
か循環しないことになります。この800年という数字の正確さに関しては議論の余地があると思いますが、しかし、桁が1つ変わるほど不正確な数字ではない
と思います。
一方、このような長い時間で循環しているということは、地下水汚染という立場から考えると、一度汚染された地下水は、汚れたままで長い時間をかけて移動
し、浄化されるまでに、やはり長い時間を要するということになリます。地下水汚染問題が重要視される根拠のひとつがこの点にあります。
(黒田登美雄・古川博恭)
(2)日本の地下水量
- わが国における地下水量について議論する場合、地下水を蓄えることのできる入れ物(地下水盆)についてよりも、そこに浸透することのできる
降水や地表水の絶対量が十分にあるか、また、どのくらい入りうるかの方が重要と思われます。
わが国の国土の約7割近くは山地からなり、そこは森林でおおわれています。これは世界の平均約3割を大きく上回っています。そして、残りの約3割が海岸
平野をつくり、主に未固結の第四紀層からなっています。いま仮に、国土の表面積を372,700kuとし、未固結第四紀層の層厚を100m、その空隙率
(間隙率)を0.1として、海岸平野に分布する第四期層が地下水盆となると仮定して計算すると、その体積は少な<見積もっても次のような値になります。
地下水盆(地下水の入れ物)=372,700ku×0.3×0.1km×0.1=1,120km3
わが国は世界的にみても湿潤・多雨な地域に属し、年平均降水量は1,714mm(昭和41年から平成7年の全国約1,300地点の降水量から算出)にも
達し、その量は6,390億m3にもなります。蒸発量として50%を除いても約
3,200億m3になります。量的にみても、わが国の地下水盆に供給するのに十分
な水があるとみてよいでしよう。一方、わが国の地表面は、未固結で粗い堆積物でおおわれているので、地表水が浸透する条件を十分に満足し、降水量の5%は
浸透して地下水になると計算すると、約320億m3になります。
(黒田登美雄・古川博恭)
(3)宮古島の地下水量
- 宮古島は、島全体が隆起サンゴ礁起源の琉球石灰岩に覆われています。島の面積は約160ku、平均標高60mの三角形をした平坦な島です。
地形的には、北西から南東に向かう数列の特徴的な高まりが見られます。その高まりは南西側斜面に緩く、北東側斜面に急となっていて、1〜2kmごとにケス
タ状の地形が繰り返されています。この地形は断層運動によるもので、多くは東側が落ち、その落差の大きなものは60m、普通は数m程度です。地下水は主
に、このような断層運動によってできたケスタ状の地形に沿って地下谷となって流れます(図W-6参照)。
宮古島の水理地質構造を要約すると次のようになリます。不透水性基盤は、泥岩を主とする島尻層群からなり、それを不整合に覆う琉球石灰岩層が帯水層と
なっています。島尻泥岩層は、北東部でわずかに露出するほか、琉球石灰岩がほぼ全島を覆っていて、その厚さは最大で60m、薄いところでは3mくらいで
す。
断層運動等により帯水層である石灰岩の厚さが場所により異なるため、島全体の平均地下水位を予測することは、きわめて難しいといえます。白川田地下水盆
および東添道地下水盆における地下水位観測結果をもとに推定すると、平均的な水深は10〜20mの範囲が考えられます。平均の水深を20mとし、琉球石灰
岩の空隙率を0.1として帯水層の体積を計算すると以下のようになります。
地下水盆の体積=160ku×20m×0.1 = 3億2千万m3
この地下水盆の体積3億2千万m3という値は、年間降水量3億5干万m3ならびに年間地下水かん養量1億4千万m3か
らみても妥当な値と思われます。だだし、宮古島における平均的な動水勾配(1/200)等を考えると、水資源として利用可能な平均的な地下水の水位は
10mまでということになります。
(黒田登美雄・古川博恭)
4 地下水の利用
地下水は、河川から遠く、かつ水道の未発達な地域においては、雨水とともに重要な飲料水源となります。地下水は、世界であるいは日本や宮古地域でどのよ
うに利用されているのでしようか。
(1)世界の地下水利用
- 世界各国における地下水利用状況については、あまりよく分かっていないのが現状です。そこで米国の力リフォルニア州における水収支(水需要
と水供給)について紹介しておきます(表W-1参照)。
それによると、カリフォルニア州では水需用の約16%を地下水から得ていることになります。国土庁のホームページ(http:
//www.nla.go.jp/mizcho/hakusho/hll/
) によると、地球の陸上に降る年間降水量は、約119兆m3であるとしていま
す。このうち、約62%に相当する74兆m3/年が蒸発散により大気中に逃げて行
き、残りの約43兆m3/年が河川水として存在し、約2兆m3/年が地下水として涵養されるとしています。そして、全世界における水使用料(1995
年)としては、3兆5,720億m3/年としています。もし、この水使用料の
15%を地下水からの供給に頼っていると仮定すると、その量は約5,360億m3/
年にもなります。最後に、世界における飲料水の約9割以上は地下水に頼っているということを付け加えておきます。
(黒田登美雄・古川博恭)
(2)日本の各地域における地下水利用
- わが国における地下水の利用総量の試算には、各種統計資料によると140〜180億m3/
年と幅があります。日本の地下水(1986)によると、地下水はわが国の年間全補給水量のほぼ2割に相当する約200億m3/
年に達し、その内訳は表W-2に示すとおりです。
その他用水は、ビル用水の一部、消雪用水および温泉用水などを含むとして、各用水利用総量の186億m3の
約1割(18億m3)が見込まれるとして集計されています。このように地下水が予
想以上に多量に利用されている理由は、地下水が地表水にみられない資源的特質を有しているからといわれています。地下水は、その水温が年問を通じほぼ一定
で、水質も良好であり、またどこでも比較的簡単に、安く採取できるという利点があるからです。
水温は大体10℃から20℃前後で、しかも年間を通じてあまり変化がありません。このため、冷却・冷房用、暖房用、消雪用など、その温度を利用したエネ
ルギー源としての価値が非常に高いといえます。工業用水の75%は冷却用水といわれ、ビル用水、消雪用水にしても、ほとんどがその温度を利用しています。
生活用水、水産用水においても、もちろん水そのものを利用しますが、温度もまた利用されています。このように、地下水の約半分は、水そのものが必要である
というより、熱エネルギー利用のために使用されているといっても過言ではありません。
次に、都道府県別に地下水利用量の多い県、地下水利用率の高い地域と、逆に、地下水利用率の低い都道府県について表W-3に示します。地下水利用量は、静岡県の海岸平野、関東平野、濃尾
平野、伊勢平野、大阪泉州平野、播磨平野、熊本平野などの大平野をかかえる都道府県で多いといえます。地下水の利用率でみると、地下水の豊富な地域で、か
つ比較的人口の少ない県で高く、大都市を有する人口の多い都道府県で低いといえます。この表から明らかなように、沖縄県は地下水の利用量・利用率ともに全
国で一番少ないことがわかります。そして、沖縄県における地下水利用量のほとんどすべては、宮古地域において利用されているといっても過言ではありませ
ん。
(黒田登美雄・古川博恭)
(3)宮古地域の地下水利用
- 宮古地域のように平坦で山が無く、また透水性の高い土壌・地質でできている地域においては、生活や産業に必要な水を得るための河川が形成さ
れにくいので、基本的には降水を溜めて利用せざるを得ません。事実、宮古地域ではかつて、屋根や樹木に降った雨を集め、これを生活用水の一部として利用し
ていました。
一方、宮古地域では幸いに地下水が豊富に存在します。地下水がどのように溜まるのかは島々により異なりますが、降った雨が島の地下に溜まリ、この地下水
を宮古地域では従来、生活用水をはじめとした用水全般に利用してきました。宮古地域の地下水は被圧されておらず、また地表に湧き出た湧水が少ないため、か
つては容易に利用できず地下水の採水には大変な苦労を伴いましたが(コラム『昭和初期の宮古島の水事情』参照)、現在で
は上水道により配水されています。
宮古島の地下水は、水を透しにくい泥岩層の上に横たわったサンゴ石炭岩の穴ぼこの中に溜まります。降水の約40%が地下水になると考えられており、この
地下水となる量(地下水涵養量)は年に約1億4干万m3と推定されます。この地下
水の多くは海水の影響を受けず、私たちが利用可能な水です。そこでこの地下水の一部は生活用水として利用されており、上水道として配水されている量は年に
約850万m3(平成11年度)です。この量は宮古島全体の年間地下水涵養量の約
6%に相当しますが、上水道水源流域(白川田、東添道、加治道)の面積は併せて33.5kuですから、この流域の推定年間地下水涵養量と比較すると約
29%となります。しかし厳密には、配水量の約90%を扱う袖山浄水場の水道原水は白川田、東添道の計22.0kuの地下水流域を水源としていますから、
袖山浄水場からの配水量はこれら2流域の地下水涵養量の約40%に達しています。
また宮古島では後述するように、一部の地域に建設された地下ダムに貯水された地下水をかんがいに用いる計画が進行中です。この事業では地下水かんがいを
受ける農地面積は8,400haと計画されていますが、この農地にどれほどのかんがい水が用いられるのでしようか。8,40Ohaの農地にかんがい水を、
例えば年間300mm、すなわち植付や干ばつの時などに1日30mmの水を10回かけるとすると、その総使用量は2,520万m3となります。これは宮古島全体の年間地下水涵養量の18%に相当しますが、かんがい水を取
水する地下水流域の合計面積は29.9m3ですから、この流域の地下水涵養量と比
較すると約96%に達します。この試算からすると、8,400haの農地を対象とした地下ダム・かんがい事業においては、年間300mm程度のかん水量に
とどめることが、かんがい水を取水する流域の地下水量を維持するために必要と考えられます。
他方、伊良部島や多良間島の地下水は宮古島のそれとは違い、いわゆる淡水レンズという形態で地下水が貯水されています(W-1-(3)参照)。これは海水と淡水のわずかな比重差により、淡水地下水が海水
の上にレンズ状に貯水されたものですが、この地下水の利用には細心の注意が必要です。例えば、淡水と海水との境界面に近い場所から大量の水を急激に揚水す
ると、その境界面は容易に破られ、淡水中に海水が混入する結果、地下水の塩分濃度が高くなって、飲料水として使いものにならなくなります。地下水が淡水レ
ンズのかたちで存在する島々では、地下水とその利用について、正確な理解と注意が必要です。
(中西康博)
(4)宮古地域におけるかんがい利用
- 宮古島は、サトウキビを基幹として葉タバコ、野菜、桑などが栽培されている純畑作地帯といえます。年平均降水量は約2,200mmと決して
少なくはありませんが、降雨が梅雨時と台風時に集中し、また、宮古島全体に広く分布する琉球石炭岩の影響で河川の発達がほとんど見られないため、安定的な
水源の確保が困難です。このため、干ばつ被害が恒常的に発生し、地域の基幹産業である農業は不安定で低い生産性に甘んじているのが現状です。
そこで、砂川、仲原、福里、皆福の4流域における1974年(昭和49年計画基準)水源依存量を24,000千m3と
して、国営かんがい事業が策定され、1980年(昭和55年)からスタートしています。この事業計画では、砂川、福里流域にそれぞれ地下ダムを新設し、既
設の皆福地下ダムと仲原流域の地下水を活用することにより農業用水の確保を図リ、併せて関連事業によリかんがい施設の設置、ほ場整備等を行い、農業経営の
安定と近代化を図ることになっています。
かんがい方式は、スプリンクラー等による散水かんがいが計画されています。かんがい期間および用水量は表W-6に示すとおり24,000千m3(昭
和49年計画基準)です。その受益面積は約8,400ha(平良市2,800ha、城辺町3,490ha 、下地町1,260ha
、上野村1,150ha) です。
(黒田登美雄・古川博恭)
(5) 世界でもめずらしい地下につくられたダム-地下ダム
- 宮古島は、古来から「水資源の確保には苦労する島」として位置づけられてきました。これは、島全体が隆起サンゴ礁からできた「琉球石炭岩」
と呼ばれる大変水を透しやすい島だからです。そのため、年平均2,200mm(3.6億m3)
もの降水がありますが、そのうちの約40%に相当する1億4千万m3は、土壌を透
して琉球石炭岩に浸透して地下水となり、海岸部で湧水となって海へ流出しています。
既にW-1-(2)でみたように、宮古島に降る雨が地表流出する割合は全国平均の約55%に比べて、わ
ずか10%(3千6百万m3)にすぎません。ところが、地下流出は全国平均の
4.5%に比べて、宮古島では約40%と高いのが特徴です。これが、宮古島に川が発達できなかった主な理由の一つです。しかし、宮古島をはじめ琉球列島の
島々は地下水を貯めやすく、取り出しやすい琉球石炭岩におおわれています。そこで地下に止水壁をつ<り、琉球石炭岩の中に水を貯める地下ダム計画が離島の
水資源開発として考えられました。
農林水産省と沖縄総合事務局は、宮古島において1974年(昭和49年)から地下ダム建設の技術開発を目的として調査を開始しました。1979年(昭和
54年)実験地下ダムとして総貯水量70万m3の皆福地下ダムが完成し、琉球石炭
岩地帯の地下ダム建設技術がほぼ確立されました。
この皆福ダムの成功を受け、砂川流域および福里流域において、いまだ世界で例をみない大規模地下ダムの建設が国営事業として1988年10月着工しまし
た。
地下ダムは、地下水の流れている帯水層を止水壁などで締め切り、地下水位を上げて、その水を揚水して利用しようとする施設です。そのためには地下水をよ
く透す帯水層と、その下部に水を透しにくい不透水層のあることが必要です。宮古島の地質は、図W-13に示すように、水を透しやすい琉球石炭岩と水を透しにくい島尻層からできています。
琉球石灰岩は地表から50〜70mの厚さで分布し、空隙や空洞多く(有効問隙率10%)非常に透水性が大きい地層です。これに対して、島尻層は石灰岩の
下位にあって、水を透しにくい泥岩からなる不透水基盤を構成しています。また、宮古島には北西−南東方向に数条の断層が走っており、前述の不透水層である
島尻層を刻み込んで図W-6に示した谷地形が形成されています。帯水
層を効率よく締め切るためには、このような地殻変動によってできた不透水層の谷地形は好都合です。
谷地形を利用し、帯水層である琉球石灰岩を止水壁によりせき止めて、地下水を貯えようというのが宮古島に建設された地下ダムです。図W-14および図W-15には、上空からみた砂川地下ダムならびに福里・皆福地下ダム付近の空中写真を示しました(図W-6参照)。
図W-16は、上空からみた施工中の福里副ダム1周辺の風景写真で
す。SMW機とよばれる大型機械を利用して地層を掘削破砕し、セメントと混練しソイルセメント壁を造成しているところです。地下ダムの最大の長所は、施行
前に掘削した表土等は地下ダムの施行後、元どうりに埋め戻すため、地表は従来通り利用できるし、また、地下ダムの完成後その貯水域が水没するといったよう
なこともありません。
(黒田登美雄・古川博恭)
(6) 宮古地域におけるかんがいのめやす
- 宮古地域において、地下ダムにより貯えられた地下水を、畑地かんがいに利用する計画が進められています。ここでは、このような地下水の利用
方法について詳しくみるにあたり、かんがし、についての基本的なことがらについてもふれてみます。
かんがいとは
かんがいとは農作物に水を与えることをいいます。水田に水を引き入れることを水田かんがいといい、畑地に水をかけることを畑地かんがいといいます。いず
れのかんがいも、わが国のように、ほぼ年間を通して雨が降る地域では、雨で足りない水分量を補うかたちで行われます。これを補給かんがいとよびます。これ
に対し、ハウスの中や降水量のきわめて少ない地域のかんがいは、完全かんがいとよばれます。
宮古島における年降水量の平年値は2,200mm程度です。この量は、サトウキビが1年間に消費する水分量(1,200mm程度)の約2倍に相当しま
す。宮古島では年降水総量はどんな畑作物に対しても十分ですが、雨の降る時期に偏りがあるため、頻繁に作物に水不足が発生します。したがって、かんがいが
必要となるわけです。「いつ」、
「どれほどの水量」を作物にかんがいすればよいかは、これまでは農家の判断にゆだねられてきましたが、かんがい事業の導入によって、今後それらは理論的に
決められ、計画に沿って行われることになります。
作物の消費水量
作物の消費水量というのは、作物が最も良好な土壌水分状態で生長するために消費する水分量をいいます。作物の1日当りの消費水量は、作物の生育段階や日
々の気象条件によって大きく変動します。例えば晴れて、風があり、温度が高く、空気が乾燥した日は、作物の消費水量は大きくなります。これは洗濯物の乾き
具合とちようどよく対応しています。日消費水量の測定方法については専門書に譲りたいと思います。
消費水量は、一般的には10日あるいは1か月の平均値が用いられます。宮古島のかんがい計画には1か月平均値が使用されています。具体例としてサトウキ
ビの場合、ピーク時期(7、8月)の消費水量は、1日当りおよそ5mmです。その中には土壌面からの蒸発量も含まれます。
かんがいの時期
かんがいを始める時期は、作物の種類によって多少異なりますが、基本的には収量や品質に影響を及ぼさない程度まで土壌水分が減少した時と考えます。
1回のかん水量
土壌には水分を保持できる能力があり、それの上限値を最大保水容量と呼んでいます。その値は、宮古島に広く分布する島尻マージではおおよそ
30〜50mm程度です。最大保水容量のうち作物に有効に利用される水分量を有効水分量と呼び、かんがい事業計画には非常に重要な因子となります。この値
は宮古ではおおよそ20〜40mm程度となり、これが1回のかん水量のめやすとなります。この性質を利用すればかん水は数日分まとめて行うことができま
す。何日分まとめてかん水できるかは、作物の1日当りの消費水量で決まり、たとえば消費水量を5mm/日(かんがい水量や作物が消費する水分量は水深mm
で表すのが慣例です)とすれば、4〜8日分まとめてかん水できでることになります(20mm/5mm=4日、40mm/5mm=8日)。
有効雨量
前述のように、わが国の畑地かんがいは降雨で足りない水分量(=不足水量)の補給を目的としていますから、その不足水量を把握することが、かんがい計画
で重要です。
ある期間内の不足水量は、期間日数に日消費水量を乗じた値(消費水量)から、その期間内に降った降雨のうち作物に利用された雨量(有効雨量と呼ぶ)を差
し引いた値となります。つまり、不足水量=(必要水量−有効雨量)で求められます。
ある期間内の必要水量は理論的(期間日数×日消費水量)にわかっているから、不足水量を推定することは有効雨量の推定にほかなりません。したがって正確
な有効雨量の推定は、合理的なかんがい計画につながることになります。
なお、有効雨量の算出方法は専門書(土地改良事業計画設計基準、計画、畑地かんがい、pp.43〜44、農林水産省構造改善局、昭和57年)に譲りま
す。一般的に、かんがい計画では過去数十年の日雨量をもとに確率的に有効雨量を算出します。いま、宮古島における過去50年問の日雨量をもとに毎年の有効
雨量を計算し、かんがい計画に使用される非超過10年確率値(10年に1回発生するような小さな値、有効雨量が少ない状態、すなわち危険側の値)を求める
と、かんがいを行う場合は約500mm、かんがいを行わない場合は約750mmになります。
定期的にかんがいを行った場合は、全く行わない場合に比べて有効雨量は少なくなります。これはかんがいを行うと、土壌中の雨水が溜まるポケットが小さく
なるからです。
かんがい方法
宮古島で採用されている主なかんがい方法には、 @ スブリンクラーかんがい、 A ホースかんがい、 B
点滴かんがいがあります。これらはいずれも節水かんがい法に分類されます。水源の有効利用と地下水の水質保全を考慮すれば、いずれも宮古島に合致したかん
がい方法です。
また、最も省力的なかんがい方法として、ウネ間かんがいがありますが、この方法は、透水性の高い宮古島の農地では、用水の地下浸透損失が大きくなり、土
壌中の肥料成分の溶脱を促すため適切ではありません。
(吉永安俊)
5 地下水に関する問題
近年、貴重な淡水資源である地下水が汚染されたり、地下水を取りすぎ、きれいな地下水がなくなってしまうという問題が起きてきています。ここではそのよ
うな問題のうち、重金属や揮発性有機塩素化合物による汚染、地下水の取りすぎによる地盤沈下、地下水の塩水化についてみてみます。また、主として農業に由
来する硝酸性窒素による地下水汚染問題が、世界的な範囲で生じてきていますが、この問題に関しては、次の第V章で詳しくみます。
(1)重金属による地下水汚染
- わが国における重金属による環境汚染は、渡良瀬川流域の銅汚染、神通川流域の力ドミウム汚染や土呂久のヒ素汚染など、鉱山由来の農用地汚染
に始まるといわれています。農用地に加えて、工場内や工場跡地などからも水質汚濁防止法に基づく地下水質の常時監視により、その汚染が明らかにされつつあ
ります。
代表的な重金属としては、力ドミウム、全シアン、鉛六価クロム、ヒ素、水銀などがあります。力ドミウムは顔料、ニッカド電池、電気メッキや安定剤などと
して使用されています。全シアンは、精練、メッキなど。鉛は、鉛管、鉛板、バッテリーなど。六価ク口ムは、研磨材、顔料有機合成の触媒、メッキなど。ヒ素
は、半導体材料、木材防腐剤、殺虫剤など。水銀は、乾電池、蛍光灯、触媒、医薬品、水銀電池などの工業製品などの原材料として広く利用されています。
(黒田登美雄・古川博恭)
(2)揮発性有機塩素化合物による地下水汚染
- 揮発性有機塩素化合物としては、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,1-ジクロロエ夕ン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1
-トリクロロエ夕ン、1,1-ジクロロエチレン、cis-1,2-ジクロロエチレン、trans-1,2-ジクロロエチレン、1,3-ジクロロプロペンな
どがあります。これらは主に、樹脂の原料、溶剤、金属などの常温洗浄剤、脱脂洗浄剤、ドライクリーニング溶剤、農薬などの原材料として広く利用されていま
す。そのため、これらの揮発性有機塩素化合物は、地下水の汚染物質として懸念されています。
(黒田登美雄・古川博恭)
コラム『PCPによる地下水
汚染−不法投棄の代償』
(3)農薬による地下水汚染
- ある農薬のTVコマーシャルから。
>村人を集めた農薬メーカーの社員が、この農薬の効能を次々と説明する。
>感心してうなずく村人。
>地面に線をひき、「この農薬を使いたい人はこっちに、使いたくない人はこっちに集まってください。どうぞ!」と社員が叫ぶ。
>ぞろぞろと皆が「使いたい人」の側に移動し、ただ一人初老の農民が「使いたくない人」の区画にボサッと取り残される。
>その男を「使いたい人」側の皆が嘲笑するように見る。
>皆の視線で自分のすべきことに初めて気づき、照れ笑いしながら皆の側に移る男。
米国の環境保護庁は、約1,300か所の井戸水を分析した結果に基づき、図W-20に
示すように全米の公共用水源井戸の10.4%、および個人井戸の4.2%に何らかの農薬かその分解生成物が混入していると推算しています。さらに
1,000か所の井戸につき数か所の割合で、米国での健康に関する基準値を超える濃度の農薬を含んでいるとしています。
日本国内ではこれほど大掛かりな調査はないようですが、個別の地域では地下水の農薬汚染事例が報告されています。
高原野菜産地として知られる群馬県の浅間山北麓で、キャベツ畑に土壌殺菌剤として使われるPCNBを分析した調査では、キャベツ畑の下流側にある湧水で
7.9ppbという高濃度のPCNBが検出されました。火山噴出物による土壌の透水性が高いことが汚染を拡大していると考えられました。
1993〜4年に奄美群島・沖永良部島で行なわれた調査では、33地点の地下水115検体について4種類の農薬を分析したところ、8地点15検体から農
薬が検出されました。野菜やサトウキビ栽培に比べて10倍もの農薬を使う花き栽培が離島の農家の間で急速に広まる中、島民にとって唯一の飲用水源である地
下水に農薬が混入する可能性が指摘されました(図W-21参照)。
継続的に地下水水質を調査している宮古島でも、1991年度には20地点の地下水のうち3地点から0.02〜0.44ppbの農薬(スミチオンとマラソ
ン)が検出されたことがありました。
以上のように、突発的な汚染事故ではなく、一般の農業で使用される農薬が地下水に混入する事例が日本でも見られています。農業は自然環境に働きかけて行
われる人の営みであるだけに、場合によっては人の行為が環境に強い影響を与えてしまいます。とくに南西諸島では農業が地域産業の大きなウエイトを占める場
合が多く、地下水水質などの地域環境に与える影響が大きくなりやすいと考えられます。
また、サンゴ石灰岩からなる島では透水性の高い条件下で農業が広く行われ、飲用水源となる井戸や湧水の近くで農薬が使用される機会も多く、特別な注意が
必要です。水質が一括管理される都市の大規模上水道施設とは異なり、島では狭い涵養地域内の局地的な農薬使用の影響を受けることも予想され、法で定められ
た農薬の検査だけでなく、現地の農薬使用の実態をよく把握した上での水質監視が望まれます。
農薬は次々と新製品が開発され、化学工業の大きな市場分野となりました。日本の耕地単位面積あたりの農薬使用量は、図W-22にみるように世界一とも言われています。日本はこれまで、狭く
て平地の少ない国土で高い食糧生産を上げるために農業の集約化を進めてきました。栽培技術と品種の改良を重ね、さらに高い収入の得られる「季節はずれも
の」の栽培にも力が注がれました。このような農業は一方で病害虫や気候の変動に弱い作物・品種の多用につながり、特定の農作物の生産団地化による連作障害
なども重なって農薬なしでは生産できないような状況が作り出されてきました。また、狭い平地で農作業を機械化しようとするために、山林を伐採し地形を大規
模に改変して単純な構造の農地を造成してきました。このような、本来の自然生態系を破壊したこととの関連が疑われる病害虫の異常発生も、農薬への依存を一
層高めさせています。
もちろん、農薬の使用が農業生産を高める場合も多々あります。しかし、病害虫や雑草にどう対応するかには、様々なアプローチがあります。農薬を常用する
のがすべてではなく、使用を必要最小限に抑えたり、様々な営農技術によって防除したり、あるいは虫や雑草の存在自体を受け入れてしまうという農業さえあり
ます。
一方、農薬は農業以外の用途に使われることもあります。
かつて日本全国でシロアリ駆除剤としてクロルデンが広く使われました。沖縄ではとくに多用されたとも言われます。クロルデンは強い有害性のため現在は使
用されませんが、有機塩素系殺虫剤で分解しにくく、地中に長期間残留して周辺の地下水を汚染しました。1987年に沖縄県が行った調査では、沖縄本島、久
米島、宮古島、石垣島で集落周辺の42地点の地下水のうち、半数近い19地点からクロルデンが検出(0.005ppb以上)されました。
またゴルフ場も、芝の維持管理のために農薬が多用される場所です。芝という単一の植物で広大な地面を覆わせるために、多くのゴルフ場では芝以外の植物と
病害虫の抹殺のために農薬を使います。一面の緑に被われたグリーンの上は、目に見えない農薬が敷き詰められていることもあるわけです。このため、環境庁で
は35種類の農薬について指針値を定め、ゴルフ場からの排出水の監視を指導しています。沖縄県でも毎年県内のゴルフ場排出水の分析を行っており、平成10
年度は2,905検体のうち22検体から農薬が検出されました。ゴルフ場は一般にグリーンの排水を良くする施設が整えられています。地中に浸透した水はす
べてが地下水に入るのではなく、排水経路から排出されるものもあります。しかし、その排水の行き先がまた場内の鍾乳洞になっていて結局地下水を汚染する場
合もあります。
農薬は農家や一般の人各自の判断に使用が任されていますが、大なり小なり有害性のある化学物質です。ところが、農家は化学物質の専門家ではありません。
そして、これまで述べてきたように、農家による農薬使用が、農家自身にとっても生活の場である地域の地下水環境に大きな影響を与えることもあります。誰か
からの一方的な宣伝や押し付けではなく、生活者でもある農家や一般市民が本当に「すべきこと」を主体的に判断できる十分な情報が提供されることが必要で
す。
(田代豊)
コラム『「花と鍾乳洞の島」
沖永良部島の地下水汚染』
(4)地下水の取りすぎによる地盤沈下
- 地下水の過剰揚水が地盤沈下を引き起こすことは、今では常識となっています。この問題に関しては戦前に、和達清夫らによって研究発表がなさ
れていたにもかかわらず、一般には認められていませんでした。ところが皮肉なことに、戦災を受けてから復興期までの間の、地下水揚水量が減少した時期には
地盤沈下が停止し、復興が始まるとともに再び地盤沈下が激化したという事実により、和達らの説は認められることになりました。
地盤沈下がもつ最大の問題点としては、次の2点が考えられます。第1は、一度沈下した地盤は二度と元の高さには回復しないことです。第2は、地盤沈下な
どが原因で海抜0メートル地帯になった地域では、致命的な災害を被ることがあるからです。例えば、昭和34年(1959)9月26日に伊勢湾台風が来襲し
た時、濃尾平野臨海部では186kuにも達する海抜0メートル地帯が形成されていました。このため、決壊した堤防からあふれ出した大量の水は人家に襲いか
かり、桑名市、長島町、木曽岬村および弥富町のほとんど全域が浸水し、長いところではこの状態が4か月近くも続きました。その被害は、被災戸数2,772
戸、死者1,236人、流失家屋763戸にのぼり、水害史上まれに見る大災害になりました。
大阪市、東京都区部、濃尾平野などかつての地盤沈下地域では、地下水揚水に関する規制措置の効果が現われて、沈下の停止ないしは鈍化がみとめられていま
す。しかし、関東平野北部、新潟、金沢などの積雪地域では、現在も地盤沈下が進行しています。積雪地域での地盤沈下は、消雪用水として地下水を短期間でし
かも大量に汲み上げていることが、その原因です。地下水に代わる効果的な除雪対策が望まれます。
地盤沈下は、一般に被圧地下水の採取によって、地層全体が弾性的に変形して沈下するものと、粘土層やシルト層が圧密、収縮して沈下するものがあって、こ
れらが複合して発生すると考えられています。このうち、沈下の主体は地下水位の低下に伴って、粘土層から間隙水がしぼり出され、その間隙容積が減少して、
粘土層に収縮が起こるためと考えられています。粘土層の収縮は圧密と呼ばれ、土の圧密理論によってその過程がある程度明らかにされています。しかし、実際
の地盤沈下は、通常の圧密だけでは説明できない点も多く、その解明は十分にはなされていません。
現在考えられている地盤沈下の発生メカニズムは、図W-26に示す
ような模式図で表されます。土の収縮は、一次元圧密理論によれば、土の自重とか上載荷重のような静荷重によって圧縮応力が発生し、圧力の低い方向に間隙水
が逃げていくことにより、土の間隙が減少し発生するといわれています。地下水位が低下すれば、水面より上の土は浮力が減少して有効重量が増加します。そし
て、粘土層に挟まれた帯水層から地下水を汲み上げ、水位を低下させると、低下量に相当する地層体積の浮力分の有効重量が上下の粘土層に加わり、間隙水の圧
力が増大して、帯水層に向かって間隙水が排出されます。この結果、上下の粘土層が収縮して、地表面に沈下が生じることになります。地下水の水位低下量が大
きくなればなるほど、静荷重も増大し、粘土層に対する水圧勾配も急になり、間隙水の排出が増大します。
(黒田登美雄・古川博恭)
(5)地下水の塩水化
- 地下水の塩水化は、高潮などが原因で地表面にもたらされた海水が浸透することにより生じることもありますが、ここで問題とする塩水化とは、
地下水の過剰
揚水によってもたらされたものをさします。したがって、地盤沈下が生じている臨海部では、ほとんどといってよいくらい、地下水の塩水化が発生しています。
地下水は一度塩水化してしまうと、その回復には長い時間を要するので、過剰揚水には注意を払う必要があります。図W-27には、地下水塩水化の簡単なモデルを示します。この図に示すように、地下水は塩水の上にレンズ状に
分布しており、塩水面と地下水面との比高(h)は、W-1-(3)でみたガイべン・へルツべルグの法則に
したがい、塩水面と地下水底面との高度差の40分の1に等しくなります。そのため、過剰な揚水が行われると、レンズの上面には円すい状の水位降下が生じ、
底面には塩水の円すい状水位上昇が生じて、最終的には井戸への塩水の侵入が発生することになります。
地下水の塩水化は、塩素イオン濃度(Cl-)を指標として判断しています。水道法(水質基準に関する省令)によると、水道水の塩
素イオン濃度は約200mgL-1以下であることが要求されています。農業用水と
しては300mgL-1が限度で、塩素イオン濃度が500mgL-1以上になると、ほとんどの農作物は生育障害を起こすと考えられています。
地下水の塩水化は、海水の浸入によってのみ起こるかというと、必ずしもそうとは限りません。地質時代の海底堆積物中に取り込まれた海水が、化石海水
(fossil salt
water)として現在まで残留し、これが偶発的に地下水中に侵入した場合でも起こり得ます。臨海部においても、海水侵入の考えられないほど深い帯水層
や、内陸部の帯水層で塩素濃度の極めて高い地下水が出てきた場合などでは、化石塩水を疑ってみる必要があると思います。
(黒田登美雄・古川博恭)
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