V 現在から未来へ、水はだいじょうぶ?

水を何に使っているの?
   (1)世界の水資源利用状況
   (2)日本の水資源利用状況
   (3)沖縄および宮古地域の水資源利用状況


生活に水をどれくらい使っているの?
   (1) 世界の生活用水使用状況
   (2) 日本の生活用水使用状況と水道普及率
   (3) 沖縄および宮古地域の生活用水使用状況


使える水はどれくらいあるの?
   (1)1人当り降水量の比較
   (2)日本の地域別降水量と水資源賦存量


世界中でおきている水に関わる問題
   (1)河川の汚染
   (2)湖沼の富栄養化
   (3)重金属類等による汚染
   (4)揮発性有機塩素化合物による汚染
   (5)硝酸・亜硝酸性窒素による汚染
   (6)アルカリ土壌化と砂漠化
   (7)世界の水問題と対策


これ以上汚さないための基準
   (1)水道水質基準
   (2)環境基準
   (3)WHOの飲料水質ガイドライン

 本章では、水資源の利用状況と、水資源の確保や保全に関わる問題についてみます。 生活用水は何にどれだけ使われていて、また飲料水はどれくらいあるのでしようか。 水資源の質と量に関する問題には、どのようなことが現在生じてきていて、水資源を守るために、どのような規制が設けられているのでしよう。 なお本書の中心課題である硝酸性窒素による地下水汚染問題に関しては、本章では概要をふれるだけにして、第V章で詳しくみることにします。


1 水を何に使っているの?

 水には大きく分けて、淡水と塩水がありますが、このうち、人間活動では飲料水をはじめとして、ほとんど淡水を利用しています。その淡水の利用状況につい てまずみてみましよう。

 

 (1) 世界の水資源利用状況

 地球上には約138京m3の水があるとされていますが、ほとんどが 海水であり、淡水部分は2.5%程度しかありません。また淡水の大半は南極などの氷であり、0.8%程度しかない未氷結水の大部分は地下水であるため、比 較的容易に利用できる河川水や湖水として存在する量は0.01%程度の約10兆m3で あるとされています。このように淡水資源は非常に限られた量しか存在しません。
 国連の資料(World Water Resources、UNESCO)によると、毎年地球上に降る降水量は約577兆m3であり、このうち陸上には約119兆m3の 降水があり、その中で、約74兆m3が蒸発し、約2兆m3が地下水として涵養されるため、残りの約43兆m3が 河川水などになるとされています。
 このような水資源の存在状況に対し、世界で使用されている水は、図V-1に 示したように、1995年(平成7年)現在で年間約3兆5,720億m3です。こ のうち、利用目的別にみると農業用水が最も多く、約2兆5,030億m3と約 70%を占めています。また工業用水は約7,150億m3で20%を占め、生活用 水は約3,540憶m3で10%を占めています。
 地域別にみると、図V-2にみるようにアジアでの使用量が年間約2 兆850億m3と最も多く、続いヨーロッパ、北アメリカとなります。しかし、1人 1日当りに換算すると北アメリカが最も多く、3,924Lを使用している計算になります。続いてオセア二アの2,4O7L、ヨー口ッパの1,985Lとな り、いわゆる先進国が多い地域で使用されています。ちなみに世界平均は1,756Lです。
 一方図V-1の推移にみるように1950年(昭和25年)における 世界の年間使用量は約1兆3,590億m3であり、この45年の間に2.6倍に増 加したことになります。特に、生活用水の増加が6.7倍に増加しています。人口は1950年で約24億9千万人、95年には約55億7千万になり、2.2 倍に増加しました。WHO(世界保健機構)は、2025年には人口が82億8干万人になり、水の年問使用量は約4兆9,130億m3になると試算しています。特に、生活用水は2倍近くに増加するものと見込まれています。た だし、1人1日当りの使用量は現在よりも幾分下まわるものと予想されています。
(高平兼司)

 

 (2) 日本の水資源利用状況

 わが国の年平均降水量(昭和41年から平成7年度までの全国約1,300地点の平均)は1,714mであり、年平均降水総量は約6,500 億m3とされています。このうち、35%に当る約2,300億m3が蒸発し、差し引き4,200億m3が 地下水を含めた平均水資源賦存量とされています。ただし、河川や洪水などによって半量近くは海に流出しますし、渇水年の年間水源賦存量は2,800億m3程度に減少します。
 わが国の年間水使用量は、図V-4 に示したように1996年(平成8年)で約892億がと積算されます。このうち、87%に当る約772億m3が 河川などから取水され、残りの120億m3が地下水から取水されています。
 用途別では、農業用水に3分の2の約590億m3が使用され、このうち93%は 河川からの取水です。工業用水は約138億m3が使用され、このうち67%が可川 水です。生活用水には約164億m3が使用され、このうち77%が河川水です。な お、工業用水には事業所内での循環水も使われますが、この量は集計されていません。
 近年の用途別比率に大きな変動はありませんが、1人1日当りの使用量は、図V-5に みるように、わずかながら減少傾向にあり、ここ数年は1,950L前後で推移しています。この値は、ヨー口ッパでのそれと類似(わずかに日本が低い)しま す。
(高平兼司)

コラム『水使用形態の区分』


 

(3) 沖縄および宮古地域の水資源利用状況

 沖縄県の年間平均降水量(昭和41年から平成7年までの25地点の平均)は2,048.8mmです(図V-6参照)。これに沖縄県の面積を乗じて年間総量を計算すると47億3千万がとなり、さらにこれを県人 口で割ると、同図に示したように県民1人当り約3,550m3の降水があることに なります。これは全国平均の約5,200m3と比較すると7割弱の値になります。 ちなみに沖縄本島だけでは約2,250m3です。一方、宮古地域では年間平均降水 量は2,015.0mmであり、年間総量は4,600万m3、1人当リの年間降水 量は約7,800m3と計算され、県平均の2倍以上あることになります。しかし、 亜熱帯気候に属する本県の蒸発散率は高く、宮古地域では降った雨の半分近くは蒸発するものとされています。
 沖縄県全体の水利用状況は、図V-7に示したように平成9年現在で 年間約3億1,700万m3とされ、そのうち約59%が生活用水に、約7%が工業 用水に、約35%が農業用水に使用されています。なお、生活用水の84.7%を河川水に依存しています。一方、宮古地域では、生活用水等の用水を、ほとん どすべて地下水に依存しています。
(高平兼司)


2 生活に水をどれくらい使っているの?

 私たちが利用する水のうち、家庭生活にはどれくらいの水を使っているのでしようか。

 

 (1) 世界の生活用水使用状況

 1995年の生活用水の使用量をみると、世界平均では1人1日当り305Lを使用したことになります。これより45年前の1950年では 174Lでしたので2倍近くに増えたことになります。これは、水道事業の発達により水の使用が便利になり、また、生活レべルも向上したため使用量が増加し たと考えられます。そして、30年後の2025年には326L程度になるものとWHO(世界保健機構)では予測しています。世界の地域別比較では、図V-8にみるように、最も多いのは北アメリカで、1995年のデータで は1人1日当り425Lを使用したことになります。これは世界平均の1.4倍に当り、最も使用量が少ないアフリカ(63L)の6.7倍を使用していること になります。家庭用プールの普及など少し費沢な生活のためと思われますが、アメリカ合衆国では水資源保全の面から節水運動も進められ、将来は幾分下がるも のと予想されています。1995年現在でヨーロッパ(280L)が次に多く、南アメリカ(274L)、オセア二ア(174L)、アジア(132L) と続きます。ちなみに日本は322Lです。なお、将来(2025年)には順位が一部逆転し、2位が南アメリカ、3位がヨーロッパになると予想されていま す。
(高平兼司)

 

 (2)日本の生活用水使用状況と水道普及率

 わが国における1人1日当りの生活用水の平均使用量は、図V-9に 示したように1975年(昭和50年)で247L、1996年(平成8年)では323Lで、ここ数年は微増または横ばい状態にあります。
 一方、地域別推移をみると、図V-10の左のグラフに示したよう に、これまで使用量の少なかった北海道、東北、山陰、九」羽地方では、近年でも使用量は上昇傾向を続けています。また、わが国で1人1日当りの生活用水使 用量が最も多いのは近畿臨海地方で、その量は1996年において365Lに達しています。次いで沖縄の362L、北陸と近畿内陸の339Lが続き、沖縄は 全国でも使用量の多い地域になります。沖縄は観光地であるためホテルなどの使用量が多く、そのことが主な背景と考えられます。
 また、行政区内人口に対する現在水道を供給している人口の割合を「水道普及率」といいますが、わが国の水道普及率は平成11年3月現在で96.3%に達 し、世界でも高い普及率であるとされます。なかでも沖縄県は東京都の100%に続き、99.9%の普及率を誇っています。ちなみに宮古地域の宮古島上水道 企業団と伊良部町上水道は、ともに100%の普及率です。
(高平兼司)

  

コラム『水と料理』/『「水道水」って何?』/『水道の種類』/『有効水量と有収水量』


 

 (3) 沖縄および宮古地域の生活用水使用状況

 沖縄県全体における1人1日当りの上水道使用量は、1 980年(昭和55年)で303L、1998年(平成10年)で368Lと計算されます。図V-12に示すようにその量は、多少の変動はあるものの増力口傾向にあることがうかがえます。
 一方、宮古地域の場合、同図にみるように多良間村の簡易水道も含めて算定しますと、1980年で255L、1998年で412Lと、年々一貫して増加し てきており、1993年から沖縄県の平均を上回るようになリました。これは全国的にみても高い値です。
 宮古島上水道企業団の資料を用い、宮古本島部での有収水量を家庭用に限って積算しますと、図V-13に示すように1980年に193Lであったのが、1998年には304Lまで増加しました。これ を、沖縄県の家庭用の水道使用量と比較すると、1988年(昭和63年)辺りまでは、ほぼ県並みであったのが、1989年(平成元年)以降は県平均より上 回っており、1998年では1人1日当り44Lも多く使用したことになります。なお沖縄県平均の家庭用水の使用量は260Lでした。
(高平兼司)

  

コラム『一般家庭での水の使 いみち』/『家庭用水使用量増加の背景は?』
         ことば『水洗化率とは?下水道とは?』


3 使える水はどれくらいあるの?

 わたしたちにとって大切な飲み水や産業用水として利用できる水は、地球上にどれくらいあるのでしようか。この量を正確に計るのは難しいですが、世界各地 の降水量をみることを通じ、この問題を考えてみましよう。
 

 (1) 1人当リ降水量の比較

 図V-17には 2 つのグラフがありますが、まず左側のグラフは世界のいくつかの国の年降水量を示してあります。右側のグラフは、各国1人当りの降水量、すなわち各国の降水 総量(降水量に国土面積をかけたもの)を人口で割った値を示しています。これらのグラフをみると、例えば、砂漠が多く乾燥気候下にあるオーストラリアの年 降水量は500mmに満たないほど少ないのですが、国土が広いわりに人口が少ないため、1人当りの年降水総量は約220,000m3と最も多くなっています。一方、日本の年降水量は世界の平均値よりも高く、降水量の多い地 域に属するのですが、1人当りの年降水総量は決して多くないことがわかります。
 人間にとって重要なのは、降った雨や雪のうち、どれくらいの量が人間活動に利用できるかです。例えば、砂漠のような乾燥した地域では、降った雨はすぐに 蒸発して大気中に戻ってしまうため、その雨は人間利用という点からすると、利用できない、無効な雨ということになります。したがって、降水量や1人当リの 降水総量のみで世界各国の水の豊かさを比較することはできません。
 しかしながら、水の豊かな国といわれるわが国でも、1人当りの量で考えると、決して豊富ではなく、また近年の様々な水汚染問題が発生してきていることな どを考えあわせると、水資源が汚染されて使いものにならないという事態におちいらないように注意を払いつつ、大切に利用するという姿勢が、今後ますます重 要になってゆくでしよう。
(中西康博)

 

 (2) 日本の地域別降水量と水資源賦存量

 日本の年降水量は平均すると約 1,700mmですが、地域によってその量は異なります。V- 18の左側のグラフに示したように、わが国で降水量の最も多いのは北陸地域で、年に約2,500mmの 降水があります。ついで南九州、四国、沖縄、東海地域の順に多く、これらの地域では2,000mmを超えています。反対に年平均降水量が最も少ないのは北 海道地域で1,200mmに満たず、関東や山陽地域でも比較的少なくなっています。
 一方、1人当りの水資源賦存量は右側のグラフに示したように、人口が密集している関東、近畿、北九州、山陽、東海の地域では少なく、とくに関東、近畿の 臨海地域ではきわめて乏しい状態です。また沖縄地域の場合、降水量は多いのですが亜熱帯気候下にあるため蒸発散量が多く、水資源賦存量は都市地域並みに少 な<なっているのが特徴です。
(中西康博)

  

コラム『川とダムの国際比 較』/『日本の降水量は減ってきている!?』




4 世界中でおきている水に関わる問題

 これまでみてきたように、地球上の生物・生態にとって、そして私たちの生活に欠くことのできない重要な水が近年、様々な汚染により、利用可能な水が少な くなってきています。そのような問題の一部についてみてみましよう。
 

 (1)河川の汚染

 私たちの生活環境からは下水道処理水や生活雑排水が、農業からは肥料や農薬、畜産業からのふん尿排水が、また工場排水からは重金属、油やそ の他、不法投棄された不明物質が、常に、または事故のかたちで突発的に河川へ流入しています。そのため、水系感染症を誘発する細菌などによる微生物汚染 や、溶存酸素の減少を伴う有機物汚染、重金属、農薬、その他の有害物質による汚染、藻類の異常繁殖等富栄養化現象、また油などの汚染が発生します。
 本来、流水河川には自然浄化作用があります。例えば、有機物の過大な流入で溶存酸素が減少し、嫌気的(酸素が不足した)状況では、バクテリアのはたらき により水中の炭水化物や夕ンパク質が分解されて、メタンガス、硫化水素、アンモ二ア等が発生し、結果的に水質が浄化されます。浄化の最中では悪臭の発生や 黒水化があり、へド口の分解現象もあります。この様な状況下では、魚類等も死滅しますが、これは自然浄化作用の一部と考えることもできます。
 しかしながら、このような嫌気的分解処理に頼らなくてもよくするには、過大な有機物の流入を防止することが、河川環境の保全となりますし、かりに有機物 の流入があっても、河川の浄化能力を超えない範囲におさえることが、河川の環境制御となります。
 嫌気的状況は、河川が流下する中で、上述したような自然浄化作用により、徐々に好気的状況に変化し、最終的には有機物が微量な水になります。しかし水質 浄化には長い流程が必要で、浄化されるまでの区間は汚染された河川環境といえます。イギリスのテームズ川は、世界ではじめて汚濁防止に取り組んだ例として 有名ですが、現在は鮭も遡上する環境に復元しているようです。なお河川の汚濁は汚染の形態が各々違うことから、それぞれ異なった対策が必要とされます。 (幸喜稔)

 

 (2)湖沼の富栄養化

 湖沼など停滞する水域では、藻類などによる生物生産が活発に行われています。藻類の生産は、窒素とリン酸を栄養分とし、光があれば光合成に よって行われます。通常、窒素0.2mgL-1と、リン0.02mgL-1が清澄な状況を維持する許容レべルとされています。
 自然状態では貧栄養湖(清澄な状態)から富栄養湖(汚濁を伴う状況)、沼沢・湿原・陸地化と長い年月をかけて進行、変化してゆきます。ところが人為的に 大量の栄養塩が供給されると、富栄養化が促進されて水質汚濁が顕著になリます。富栄養化すると湖面の色が緑色ないし黄色に変化し、ひどい場合には緑の粉が まかれたような状況、すなわちアオコが大量に発生します。このような状況下では、湖沼水の表層では溶存酸素が飽和しますが、底層では消失し、その結果、 鉄、マンガン等が還元状態で溶けて黒水化してへド口状態になります。さらに悪化すればメタンガス、硫化水素、アンモ二アガスの発生につながります。また魚 は、商品価値の低い魚種に交代するとともに、魚介類の斃死(へいし)も起こります。このような人為的な汚染は、生活排水や産業排水からの窒素やリンの流入 が原因となります。この対策には、下水の3次処理による脱窒、脱リンや肥料の適正施肥等の厳しい処置が求められます。
 また湖沼において、夏、冬の水温の違いによって密度流が発生するかしないか、つまり、上層と下層間で湖水が循環し、酸素の補給が行われるかどうかで、そ の浄化機能に差異が生じます。十分に深い湖水では循環域外に生産物が保存されることから浄化は常時進行しています。(幸 喜稔)

 

 (3)重金属類等による汚染

 重金属は、長期間にわたり摂取すると、慢性的毒性が現れる特徴的な物質です。重金属汚染物質としては、水銀、力ドミウム、ク口ム、ヒ素、 鉛、マンガン等があります。重金属は一般的に土壌吸着され易く、拡散移動しにくい特徴があります。しかしながら現実としては、水銀の海域汚染による水俣 病、力ドミウムの河川汚染によるイ夕イイタイ病等の水質汚染は、深刻な社会問題(公害)となった重金属汚染の代表例です。これらの場合、重金属の人体に及 ぼす影響が、米や魚等の食物を経由して発生したことから、因果関係の解明に時間がかかり、問題の解決が遅れました。
 最近では、1998年にバングラデシュにおいて、飲料水とする井戸水に含まれたヒ素による中毒が問題となりました。これは国際機関が開発支援して掘られ た井戸からヒ素が検出されたことによります。日本も代替水源やヒ素の除去対策などに関し、専門家を派遣し調査しています。
 重金属等による汚染は、汚染物質が直接に影響する場合のほか、生物濃縮されてから影響を受ける、間接影響があるので、常時定期的な監視を行う体制が必要 です。日本では、公害対策基本法で重金属に関する環境基準を定め、公共水域を対象とした健康項目として環境監視しています。
(幸喜稔)

コラム『水中の環境ホルモ ン』


 

 (4)揮発性有機塩素化合物による汚染

 土壌・地下水汚染に関連する有機塩素化合物の種類は多く、代表的なものとしてはトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1.1.1.- トリクロロエタン等があげられます。これらの揮発性有機塩素化合物は、洗浄剤として半導体工場やドライクリーニングで幅広く使われています。
 揮発性有機塩素化合物は水よりも重く、また、水に溶けにくく、土壌への吸着や分解を起こしにくい特徴があることから、地下へ浸透し、地下水の流れに沿っ て移動し、場合によっては滞留することがあります。揮発性有機塩素化合物はこのような性質をもつため、その地下水汚染が最も顕著になり、発ガン性を指摘さ れる化学物質として、欧米をはじめ日本でも社会問題となりました。
 一方、半揮発性有機塩素化合物の代表とされるPCBは水よりも重く、粘性が大きく、土壌に吸着され易い特徴があることから、地下水への拡散移動は小さい ので、土壌汚染は起こしても、顕著な地下水汚染の原因にはなりません。しかし、私たちの家庭で使う洗剤等の界面活性剤による汚染とつながれば、水に溶けて 移動することから、地下水汚染の可能性もでてきます。
(幸喜稔)

 

 (5)硝酸・亜硝酸性堅素による汚染

 硝酸イオンは体内に入ると亜硝酸イオンに還元され、血中ヘモグロビンと結合して、酸素欠乏症を起こしチアノーゼを発症させる原因物質です。 そこでWHOでは飲料水中の硝酸イオンのガイドライン値を50mgL-1(硝酸性 窒素に換算すると約11.3mgL-1)と設定しています。
 硝酸イオンと亜硝酸イオンは天然に存在するイオンで、窒素循環の一部を形成しています。表流水と地下水中に天然に存在する硝酸イオンの濃度は、一般的に 1L当り数mgです。人間活動に伴う土壌環境への主要な硝酸性窒素の供給源には、生活排水、家畜ふん尿、肥料等があります。とりわけ農業活動を集約的に行 うことにより、地下水中の硝酸イオンの濃度が増加することが多く観察されています。その濃度は、高いところでは1L当り数百mgにもなります。国によって は人口の10%もが、硝酸イオン濃度50mgL-1以上の飲料水にさらされている 場合もあるようです。
 一般に、飲料水中の硝酸イオン濃度が10mgL-1程度の地域では、人が摂取す る硝酸イオンの主な源は野菜です。しかし飲料水中の硝酸イオン濃度が50mgL-1を 超えたときは飲料水が硝酸イオンの主な摂取源になると思われます。一方、食品に含まれるタンパク質は、私たちが摂取した後、最終的に尿素、アンモニウムイ オンとなります。土壌中に入ったアンモ二アは、水田土壌などの嫌気的(酸素が十分にない)環境では、還元されて窒素ガスとなり大気中に放出されますが、畑 の表面など好気的な(酸素が十分にある)環境では亜硝酸、硝酸イオンへと変化していきます。これらのイオンは土壌粒子表面と同じマイナス荷電のため土壌に 吸着されにくいことから、地下水に溶け込んで地下水汚染を引き起こします(コラム『土の性質と硝酸イオン』参照)。また地下水 が循環する環境では、硝酸性窒素は濃縮されることになります。
 また硝酸・亜硝酸イオンと発がんとの関係が危慎されていますが、これらのイオンは発がん物質として動物に直接作用するものではないことが、実験により示 されています。しかし、これらのイオンとの関連でN-ニトロソ化合物(その多くは動物に対して発がん性をもっています)が内因的あるいは外因的に生成され ると、人に対する発がん生の危険性が増加することについては、ある程度心配があります。 1 日の硝酸イオンの摂取量とガン(とくに胃ガン)との関連性を自唆する事例は、物理的あるいは生態学的な疫学研究によって得られていますが、これらの因果関 係はよリ明確な疫学的分析・研究で確認されたわけではあリません。
 他方、世界のいくつかの水道水中に、亜硝酸イオンが含まれていることが最近明らかなったことから、WHOでは、亜硝酸イオンについてのガイドライン値を 示さなければならないとの結論に達しました。このとき、メトロヘモグロビンに対し、硝酸イオンと亜硝酸イオンが相対的に(モル濃度で)10:1の潜在的効 力をもつものとして、亜硝酸イオンについてのガイドライン値を暫定的に 3mgL-1としました。ただし実際の飲料水中には硝酸イオンと亜硝酸イオンが同 時に含まれる可能性があるので、次の式に示したように、それぞれのガイドライン値に対する比率の合計が1を超えてはならないとしています。
(幸喜稔)
 C亜硝酸イオン     C硝酸イオン
------------------------ + ----------------------- ≦  1
 GV亜硝酸イオン    GV硝酸イオン

ここで、Cは濃度、GVはガイドライン値


 

 (6)アルカリ土壌化と砂漠化

 降水量に比べて蒸発量が多い地域では、地表面に集まった水は蒸発し、残されたナトリウム等の塩類が表層に蓄積します。このような状況が進む と、pH8.5以上のアルカリ土壌が形成され、その結果、土壌の団粒構造が崩れ、撤密で堅い層を形成し、植物の生育が阻害され、砂漠化が進行します。
 砂漠化対策には、多量のかんがい水で土壌の洗浄をする方法や、石膏(硫酸力ルシウム)による中和があります。石炭を燃焼したときに発生する二酸化硫黄 (酸性雨の原因物質のひとつ)を脱硫するさいに、その副生成物として石膏が得られますが、これを砂漠化防止のための資材として活用すれば、同時に酸性雨対 策ともなることから、環境技術移転のひとつとして、その研究が取り組まれています。
 またエジプトでは1970年にアスワン・ハイ・ダムが、ナイル川の洪水防止と農地へのかんがいを主目的に建設されたましたが、現在では、その下流域にお いて、乾期には土壌表面に塩分集積が起こり、その塩分を除去するための排水設備を建設しなければならない事態となっています。ダム建設以前には、8月から 始まる雨期に毎年洪水があり、乾期に集積した塩分を洗い流すとともに、上流から運ばれる肥沃な土砂が農地にもたらされ、農業生産が豊かに行われていまし た。またかんがい用水路が張り巡らされたことから、住血吸虫の中間宿主の巻き貝が大発生し、新たな風土病が流行し始めたり、ボウフラが水路で繁殖しマラリ アがはびこったという事例も報告されています。
 四季がある日本と比較して、雨期、乾期の季節がある熱帯地方では、水利用の方法が自然環境に及ぼす影響に大きな差異があることを知るのも大切です。
(幸喜稔)

コラム『水の硬度と害』



 

 (7)世界の水問題と対策

 人の存在に不可欠な汚れてない衛生的な水の確保は、世界的にみて現在も問題を抱えていますし、今のままでは将来より深刻な問題を抱えてしま いかねない状況にあります。こうした問題を解決するため、2000年3月オランダで国際会議「第2回国際水フオーラム」が開かれました。
 そこでこの項では、その会議のために作られた資料や会議内容のまとめ、さらにはその後4月に国連より出された現在および将来における水問題に関する報告 書に基づき、世界の水問題の現状と将来予測、そしてその対策について紹介したいと思います。
 現状:国連は「消毒した飲み水の供給を受けられないでいる人の数は、アジアで約19億4千5百万人、アフリカで約3億2千6百万人、世界全体では全人口 60億のうち約24億5千6百万人」と推定しました。この数は1990年と比べると、アジアとラテンアメリカでは減っていますが、アフリカでは6干万人も 増えています。この結果、飲み水や調理用水に不衛生な水を使うため感染症が発生し、それによる子供の死者は毎年200万人に達すると指摘しています。
 将来(2025年時点):国連は「現在でも水不足が深刻な途上国で急激な人口増加が予想されるため、2025年には安全な水の供給を受けられない人は 40億人にもなる可能性がある」と試算しました。2025年に必要な水量は最大5,235km3と 予想され、これは1995年当時の3,788km3に比べ、1.4倍にも達しま す。今後25年間に琵琶湖(貯水量27.5km3)の50倍以上の水資源を確保し なければなりません。
 対策:国連は1980年に「1990年までに全ての人に安全な飲料水を」という目標を掲げ努力した結果、「約20億人がきれいな水を入手できるように なった」としています。しかし一方では、「2025年までに全ての人に安全な水を供給するためには、最低でも毎年約110億ドル(約1兆1千億円)の投資 が必要」との試算を示しています。上述したオランダの会議では、「水の安全保障を達成することは21世紀の人類共通の目標」とすることをうたい、国際河川 などでの水資源の共有といった7つの課題の達成度を2002年の国連環境特別総会などで検証することを決めました。「第3回国際水フオーラム」は2003 年3月、日本での開催が決まっています。先のオランダの会議では「水は基本的人権のひとつ」ということを宣言することができませんでした。第3回の会議で は、このことの進展も望まれています。研究者達は「衛生的な飲み水の供給と、し尿処理に向けて、途上国でも利用できる安価で適正な技術(例えば効率的なか んがい技術など)を開発する必要がある」と考えています。 ※ 参考:琵琶湖の貯水量27.5km3は、宮古島での水使用量を1日2.5万トンとすると、3,000年分に相当します。
(渡久山章)

コラム『硫酸イオンと飲料水 質』



5 これ以上汚さないための基準

 これまでみてきたような水に関する問題、とくに水質に関する問題の発生をうけて、現在多くの規制とそのための基準が設けられています。私たちが日々直接 口にする水道水は、その水質が悪化すると健康害を引き起こす恐れがありますし、そうでなくても環境に悪影響を及ぼすことがあるからです。ここではそのよう な規制や基準の概要についてみてみまレよう。

 

 (1) 水道水質基準

 日本の水道水に関する水質基準は、平成4年に大幅な改定があり、その後、必要に応じた改正がなされてきています。
 水質基準値は、水道水質の安全性・信頼性を確保するため、人が生涯にわたり連続的に摂取しても健康に影響が生じない水準をもとに、安全性を十分に考慮し て「健康に関する項目」が設定されています。また、水道水として基礎的・機能的条件を確保するため、生活利用上あるいは水道施設の管理上障害が生ずるおそ れのない水準として「水道水が有すべき性状に関連する項目」が設定され、併せて46項目の基準値が定められています。
 また、水質基準を補完するため、国民の二ーズの高度化に積極的に応えられるよう、「おいしい水」などより質の高い水道水を供給する目標として、「快適水 質項目」13項目がその目標値とともに定められています。
 さらに健康に関連する物質のうち、全国的にみて水道水中での検出レべルが極めて低く、現状では基準項目とする必要性はないが、将来にわたって安全性の確 保をするために体系的・組織的な監視を実施して、検出状況を適宜水質管理に活用する項目として、「監視項目」35項目がその指針値とともに定められていま す。
 このようにわが国では、水道水は94項目にわたり水質検査を実施して、水質状況を監視掌握しながら供給されているので安全性が保たれています。
(幸喜稔)

 水道水質に関する基準94項目のうちわけ

  ● 水質基準項目: 46項目
    29項目:健康に関連する項目
    17項目:水道水が有すべき性状に関連する項目

  ● 快適水質項目: 13項目(目標値)
    おいしい水供給のための目標

  ● 監視項目: 35項目(指針値)
    新たな化学物質の汚染状況を把握する指針

コラム『水質基準と安全性』


 

 (2)環境基準

 1967年(昭和42年)に公害対策基本法が制定され、法律に基づいて水質汚濁に係る環境基準が1971年(昭和46年)12月に定められ ました。環境基準は、公共用水域の水質保全において、達成し、維持することが望ましい基準を行政の目標として定めたものであり、「人の健康の保護に関する 環境基準(健康項目)」と「生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目)」から構成されています。
 これらのうち健康項目は、全公共用水域について一律に定められています。一方、生活環境項目については、河川、湖沼、海域毎に利用目的に応じた水域指定 を設けて、それぞれの基準値を定め、各公共用水域に対する水域類型を指定することにより、水域の環境基準が具体的に示されることになっています。
 また、健康項目および生活環境項目とは別に、「要監視項目」が平成5年の改正に伴って設定されました。要監視項目は水道水質に関する基準の設定状況や、 公共用水域などにおける検出状況等を考えて定められたものです。今後の測定状況をみて、環境基準の健康項目への移行等を検討することになっています。
 さらに、トリクロロエチレン等の有害物質による水質汚濁が全国的に広がっていることから、平成9年3月には、地下水の水質汚濁に係る環境基準が設定され ました。
(幸喜稔)

コラム『水中物質の大きさ−水問題に関する度量衡


 

 (3) WHO の飲料水質ガイドライン

 WHO(世界保健機構)は、飲料水質のガイドライン(基準)に関し、次のようにコメントしています。 @ ガイドラインは、飲料水として望ましいレべルに設定すること、 A ガイドライン値を超える水を摂取しても、直ちに健康影響が生じない程度にガイドラインを設定すること、 B ガイドラインを、望ましい水質レべルを維持するために所要の対策をとることを勧めるシグナルとして扱うべきであること、 C 加盟各国は、WHOのガイドラインを参考にして、それぞれの国の自然、社会、文化および経済的状況を考慮して実行可能で適切な水質基準を定めること。
 このような基本的姿勢を示したうえでWHOは、1981年までに得た知見から、飲料水質のガイドライン項目を微生物学的・生物学的性状、無機物質、有機 物質、外観・知覚に関する性状、放射性物質の5つに区分し、44項目のガイドラインを1984年に勧告しました。
 その後、新たな毒性データの蓄積や、飲料水中の新規化学物質の検出事例等、新たな知見の集積をもとに、151項目以上にわたって検討し、その結果128 項目のガイドライン値を、1993年に勧告しました。そのとき検討された項目の内容は、微生物性状1項目、健康に関わる無機物質22項目、健康に関わる化 学物質30項目、農薬・殺虫剤36項目、消毒剤およびその副生成物29項目、放射能2項目、飲料水として障害を発生させないレべル31項目となっていま す。
 ガイドラインは、ガイドライン値とその背景となる化学物質の性状、分析法、環境における存在状況とヒトへの暴露、実験動物およびヒトにおける代謝、実験 動物への影響、ヒトへの影響、およびこれらをとりまとめたクライテリア(基準)から構成されています。
 また、ガイドライン値の設定に際しては、国際ガン研究機関の発がん性評価、国際化学物質安全性評価計画、FAO/WHOの合同残留農薬専門委員会や合同 食品添加物委員会で実施されたリスクアセスメントも活用されています。(幸喜稔)

コラム『クリプトス ポリジウム』





このページのトップへ